元朝日新聞記者である北星学園大学非常勤講師の植村隆さんが札幌地方裁判所に提起した櫻井よしこ氏、株式会社新潮社外2社に対する名誉毀損訴訟について、櫻井よしこ氏らが東京地裁への移送を申し立てていたところ、8月31日、札幌高等裁判所は、移送を認めた札幌地方裁判所の決定を取り消し、移送申立を却下する決定を出しました。
極めた妥当な結論であるとして、弁護団が声明を発表しましたので、全文を掲載します。
なお、植村さんの名誉棄損訴訟の詳細については、こちらのコラムをご覧ください。
コラム → 北星学園大学植村さんの名誉棄損訴訟のご紹介
声 明
本日、札幌高等裁判所第3民事部は、植村隆氏(北星学園大学非常勤講師・元朝日新聞記者)が札幌地方裁判所に提起した櫻井よしこ氏、株式会社新潮社外2社に対する名誉毀損訴訟について、東京地裁への移送を決定した札幌地裁民事第5部の原決定を取り消し、櫻井氏らの移送申立を却下する決定を下した。
本日の決定は、民事訴訟法17条を正しく適用したものであって極めて妥当な結論である。
植村氏が1991年8月11日付朝日新聞大阪本社版社会面に、はじめて『従軍慰安婦』として名乗り出た金学順氏について書いた署名記事につき、「捏造記事」という謂われなき汚名を着せられ、激しい誹謗中傷を受け、自身だけでなく勤務先の北星学園大学、家族が脅迫されるほどの憎悪を向けられている。
ところが、ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、植村氏や大学、家族が脅迫や暴力の恐怖にさらされていることを知りながら、雑誌やインターネット上で「捏造」「意図的な虚偽報道」である等と執拗に誹謗中傷している。そして、その言説に煽られるかのように、植村氏への卑劣な攻撃が今なお続けられており、櫻井氏の言説は植村氏の社会的被害とは無関係ではありえないものである。
原決定は、植村氏に対する社会的被害と櫻井氏の名誉毀損表現とを切り離して被害の実態から目を背けており不当な内容であった。
本日の決定は、植村氏の被害実態に直接触れてはいないものの、かかる事態を重く受け止めたと理解できるものであり、札幌高等裁判所の正当な判断を高く評価する。
また、植村氏と出版社らの圧倒的な経済的格差、とりわけ植村氏が非常勤講師であって経済的基盤が脆弱であることに照らせば、東京へ移送するとの原決定は、経済的理由から裁判を続けて行くことが危ぶまれる事態を招来させることになりかねないものであり、実質的に植村氏の裁判を受ける権利を害する内容であった。これは植村氏に限らず、大手マスメディアによる地方の一市民に対する名誉毀損訴訟を、事実上、東京地裁の専属管轄とする先例になりかねず、到底看過することができないものであった。
本日の決定は、植村氏ひいては大手マスメディアによって名誉毀損等の被害を受けた市民の裁判を受ける権利を十分に配慮したものであり高く評価する。
弁護団は、植村氏の慰安婦記事は真摯な取材に基づいたものであり、ジャーナリズム精神が体現された優れた記事であり、「捏造」批判は、何ら根拠のない非難であると確信している。
私たちは本日の決定を高く評価すると共に、今後も司法の場で植村氏の名誉回復を実現するべく全力を挙げる決意であることをここに改めて表明する。
2015年8月31日
植村隆氏名誉毀損札幌訴訟弁護団
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