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 当事務所の弁護士全員が所属する日本労働弁護団北海道ブロックは、「道内公立学校教職員に変形労働時間制の適用を許す北海道条例の拙速な制定に反対し、慎重かつ十分な審議を求める」声明を発表し、関係機関に執行しました。

 当事務所のサイトにも声明全文を掲載いたします。



 「道内公立学校教職員に変形労働時間制の適用を許す北海道条例の拙速な制定に反対し、慎重かつ十分な審議を求める」


1、北海道教育委員会は、本年11月25日からの、北海道議会の令和2年第4回定例会に、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置条例の一部を改正する条例案」(以下、「変形労働時間制条例案」という。)を提出した。この条例案が可決されれば、北海道内各地方自治体においては、今後、公立学校の教職員に対して、1年単位の変形労働時間制を導入することが可能となる。

2、変形労働時間制は、業務に繁閑が認められる事業において、厳格な要件の下に、1日8時間、1週間40時間以内という労働基準法の労働時間規制の例外を許すもので、対象期間を平均した労働時間が法定労働時間以内であれば、一方、閑散期に休日をまとめ取りやすくすることなどを可能にし、他方、繁忙期には1日8時間を超えて仕事に従事することを認める、というものであるから、総量としての労働時間を削減するものではない。変形労働時間制の導入は、労働者の労働時間を短縮に向かわせるのではなく、逆に恒常的な長時間労働を強いることになるとの問題点が昭和62年の制度設計以来強く指摘されてきた。
 1日8時間を超える勤務を合法化することによる弊害が大きいと考えられることから、前述のとおり変形労働時間制の導入にあたっては、法は厳格な要件を定めており、また、地方公務員法は原則として変形労働時間制を導入することができないとしている。
 しかし、昨年改正された「公立の義務教育諸学校の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)において、各地方自治体が条例を制定すれば、地方公務員である公立学校の教職員に対しても変形労働時間制を導入できるとされた。これを承けて、今般、変形労働時間制条例案が北海道議会に提出されたというわけである。

3、そもそも北海道の学校教育の現場に繁閑期の区分があるとは認められないし、何より、道教委の調査によっても異常な超過勤務状態が解消されていない(最近のマスコミ報道による)。道政としては、この異常な超過勤務状態を解消することが先決である。これを改善することなく一年単位の変形労働時間制を導入すれば、現況を固定化することになりかねない。
 教員の長時間労働は、労働環境の問題であると共に、子どもの教育を受ける権利の内容の問題である。
 教員の異常な超過勤務状態のもとで子どもの教育の権利を十分に保障することはできない。
条例案が目的としているという、休日の増加などの改良は、現行条例に基づく関係教職員組合との交渉や各学校での教職員間の充分な議論を経た運用で十分実現できることである。

4、北海道内の学校現場では、現在、終息の見えないコロナ感染予防の対策に手をとられるという、新しい事態も加わって、教員らが向き合う課題は複雑かつ増大なもの、勤務時間は恒常的に超過状態となっており、教員らの過労死の危険が増している。
 しかし、この度の条例提案は、この制度を学校現場に適用することの問題点について十分に検討された上でのものとは言い難く、対象となる教員らの理解も十分に得られたとは考えにくい。

5、本条例案の審議に当たっては、教職員の超過勤務の実態をいかに是正するかの見とおし、労働基準法が本制度の導入に当り、労働者の権利保障の見地から求めている労使協定が、条例上は要件とされていないことの代償をどう措置するか、学校現場では本制度の運用をどの程度強く求めているかなど、実態が的確に把握されているか、条例が予定している制度運用上必須の人事委員会規則や各地方教育委員規則による制度設計の要諦をどこにおくかなど、十分に審議されるべきである。
 仮にも、審議不十分なまま拙速な多数決で条例制定することは、北海道内の学校教育に禍根を残すことになるということにつき思い到るべきである。

6、日本労働弁護団は、先の給特法改正について、ここでも指摘した問題が解決されないとして、立法過程で反対の意見を表明した。
我々同北海道ブロックは、道内の労働者の権利実現のため、日々活動しているところ、上述の理由から、変形労働時間制条例案が十分な論議が尽くされることなく議決されることを看過することはできない。
 変形労働時間制条例案に関し、拙速に制定することに強く反対し、教職員の声を十分に聞き、その置かれている労働環境に十分配慮して、審議が尽くされるよう求める。  

     2020年12月8日
         日本労働弁護団北海道ブロック 代表 伊 藤 誠 一

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