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弁護士の渡辺達生です。

1 弁護士の使命は、弁護士法に規定されているように、人権の擁護と社会正義の実現ですが、弁護士会として取り組む人権擁護活動の最も大きなイベントが、日弁連の人権大会です。今年の人権大会は、10月3日・4日に広島で開催されます。3つの分科会でシンポジウムが行われるのですが、第3分科会では、『「不平等」社会・日本の克服ー誰のためにお金を使うのかー』というテーマでシンポジウムを行います。私は、この第3分科会の実行委員となっています。
6月22日から30日にかけて、第3分科会の実行委員会のフランス調査に、私も参加してきました。


2 フランスは、ドイツに次ぐEU第2位、世界でも第5位の経済大国です。不平等社会の克服を考えた場合、福祉国家を想定しますが、スゥエーデン、ノルゥエー、デンマークといった北欧の国々は人口が1000万人に満たない小さな国ですが、経済大国の福祉国家という意味で、フランスはきわめて興味深い国です。
また、フランスは、2007年には、アメリカ流市場主義を標榜する国民運動連合のサルコジが大統領になりましたが、2012年には、社会党のオランドが大統領になり、年収が100万ユーロ(約1億円)を超える個人の富裕層に対し、最大75%の税率を課す特別貢献税を導入しようとしています。


3 調査先は、役所関係、市民団体、労働組合等13に及びますが、ここでは、私が深く印象にのこった2か所を紹介します。

? ONPES(貧困と社会参入観測所)
ONPESは、貧困にかかわる様々な社会的な問題を調査・研究する国の機関です。公的な統計に加え、民間団体からのデータも広く集積し、貧困の実態についての独自性をもった総合的な分析を行い、集約した情報を政府、議会、公共(市民)に配信しています。この報告が政府に対し、大きな影響力を与えることも少なくありません。

対策を立てるにしても、まず、情報を収集し分析することが必要ですが、貧困問題について、フランスでは国家がそれをやっていうるのです。日本では、民主党政権になるまで、貧困問題の調査をほとんど行っていませんでしたので、日本とは全く違います。

? DAL(住宅への権利)
DALは,1990年に設立した市民団体で、住宅困窮当事者の救済と「住宅への権利」の発展のために,住宅困窮当事者とともにスクワット(占拠)や裁判闘争を行っています。

スクワットとは、建物(主に、国や会社が使用していない建物)を占拠し、貧しく屋根のある住居のない人たちに対し,そこを一時的な住居として提供することです。このようなことを日本でやると、住居不法侵入で逮捕される、あるいは、民事裁判で明け渡しを命じる判決が出され、強制執行を受けるということになりますが、フランスはそうはならないのです。

住宅を確保することは、人が人間らしく生活する上で極めて重要なことですが、フランスでは、法的な権利として住宅の権利を保証しており、それを具体化する様々な施策が進められています。一例をあげると、上記のとおり、建物を占拠したとしても、正当な理由があれば、それが刑事罰の対象となることも、所有者による明け渡しの裁判が認容されることが無いのです。しかも、この正当な理由は、占拠している人を基準に、その人に他に住む家がなく、ここに住まなければ野宿をせざるを得ない等の事情があれば、認められるのです。その背景には、住宅として使えるのに使われていない建物が単に値段をつり上げるために寝かされており,他方で,無数の人たちが屋根のない生活を強いられていることが不正義であることや、国際的な人権法の発展の中で、屋根のない場所で野宿をせざるを得ないことは、人道に反する権利侵害であること等が、社会の共通認識になっています。

DALによるスクワット活動が、契機になり、裁判上、このような権利が認められ、それが立法につながっています。それが、DALO法です。この法律は,やむを得ざる状況が生じているために占拠を行っていることを証明できる場合に,空き家の占拠に正当性を与える法律であると共に、国に対し、住居の提供を義務付ける法律でもあります。DALO法に基づき、申請をすれば、国は、住居を割り当てなければならず、その旨の判決を出すこともできます。

法的な細かいことはまでまだ調査ができていませんが、日本では法的にあり得ないことが、フランスでは法的に認められていることが非常に新鮮でした。また、市民の運動が社会的に認知され、そこから法的な権利が作られるということが、このような市民法の場面であることも、非常に興味深いことです。

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