コロナ禍と自衛隊

　弁護士の佐藤博文です。

　皆さんの自衛隊のイメージはどのようなものですか。軍隊としての自衛隊や隊員の実態について、「法と民主主義」という雑誌に、次の様なことを書きましたので、ご紹介します。

【兵士や戦闘機の数は、独伊仏英日５か国の比較で何番目？】
　３番目ぐらい？　いえいえ、いまや日本は断トツの1番です。ＥＵ各国が冷戦崩壊後、軍備縮小へと向かっている時に、日本は大逆走したのです。いま、深刻なコロナ禍に見舞われ、国家財政が逼迫する中で、この路線を続けるのでしょうか。

　１９９０年（冷戦崩壊）と２０１５年（安保法制成立）の比較で、陸海空を合せると
　　独　軍　　４７万６３００人　⇒　１７万８６００人
　　仏　軍　　４５万３１００人　⇒　２０万８９５０人
　　英　軍　　３０万１０００人　⇒　１５万４７００人
　　伊　軍　　３６万１４００人　⇒　１７万４５００人
と、軒並み半分以下になっています。ところが、
　　自衛隊　　２４万６,４００人　⇒　２４万７１５０人
と現状を維持し、５番目から一躍トップに躍り出ました。

　戦闘機に目を移しますと、
　　独　軍　　６３８機　⇒   ２３５機
　　仏　軍　　８４５機　⇒　２８１機
　　英　軍　　５３０機　⇒　２５４機
　　伊　軍　　４４９機　⇒　２４４機
とほぼ半減以下になっているのに
　　自衛隊　　４２２機　⇒　５５７機
と、やはり5番目からトップに躍り出ました。さらに安倍政権でステルス戦闘機F３５を１４７機買うことにし、取得費＋維持費は６．７兆円に達し、これにオスプレイ１７機も加わります。
　
【自衛隊の海外派兵は、いま、何処に、幾つ？】
　答えは４つです。最近、政府自民が推進している「敵基地攻撃能力保有」と合せ、戦争リスクと軍事費負担が拡大しています。コロナ禍で、国民が望んでいることでしょうか。

〔南スーダン国連PKO派遣〕
　施設部隊と司令部要員が２０１１年から派遣され、施設部隊　約３５０名は２０１７年撤退しましたが、司令部要員４名は継続しています。南スーダンＰＫＯは　軍事的任務が第１であり、国際交戦法規が完全適用されているので、立派な派兵です。

〔ジブチ基地〕
　２００９年海賊対処の名目で派遣し、２０１１年７月自衛隊航空隊の拠点基地として開設しました。Ｐ３Ｃ哨戒機の他、護衛艦、派遣航空隊も編入し、４００人の隊員が活動しています。今は海賊がいなくなり、日米軍事同盟に基づく中東・アフリカ戦略の拠点になっています。

〔シナイ半島の多国籍監視軍MFO〕
　２０１９年４月、安保法制で新設された「国際連携平和安全活動」に基づき指令部要員２名を派遣しています。ＭＦＯは米軍が主力で、イスラエルをアラブ諸国から守る目的があり、ＰＫＯと違いもっぱら軍事的任務を遂行するものです。

〔中東における情報収集活動〕　
オマーン湾、アラビア海、アデン湾の３海で、米国の呼びかけに馳せ参じたものです。「平和と安定」「日本関係船舶の安全の確保」を名目に、２０１９年１２月の閣議決定で護衛艦とＰ３Ｃ対潜哨戒機を派遣しています。ジブチ基地が拠点になっています。

　こうして、米国が中東で行なう武力行使に、いつでも加担できる体制になっています。

【いま自衛隊の中で、コロナ禍はどうなっている？】
　軍隊は、在宅勤務ができない、「三密」の極致です。

　防衛大生は、コロナ禍の下で、寮生活（１部屋８人）を強いられ、家にも帰れません。感染者が発生しており、週刊誌によると、脱柵（脱走）や暴力、いじめ、賭博行為などが多発し、３月末からの約３か月で、自主退学者が数十名、自殺未遂者が数名出ていると言います。

　陸自朝霞駐屯地では、教育隊課程（受講者１９０名）でコロナ陽性者が発生し、終了後に全国の所属部隊に帰隊し、北海道から沖縄まで２９駐屯地で４３名が陽性となり、隔離者は全国で１０００名に上りました。これからさらにどこまで拡大したかは報道されていません。
　
　軍隊内での感染とその移動による市民社会への影響（国内外への広がり）については、１００年前の第一次世界大戦と「スペイン風邪」（日本では４５万人死亡）の教訓があります。

【軍事よりコロナ対策に！】
　この深刻なコロナ禍の下でも、戦争準備、軍事費の無駄使いが止まらず、自衛官や家族、防衛大生の人権は、おざなりにされています。私たち主権者は、こういう時だからこそ、関心を払いコントロールを効かせる必要があります。