弁護士の桝井妙子です。
2022年2月22日、大阪高裁において、優生保護法に基づく強制不妊手術を受けた被害者について、初めて国への損害賠償請求が認められました。
■ これまでの判断
札幌地裁での判決を始め、これまでは違憲・違法な行為とされつつも、「不法行為の時」から20年が経過すると損害賠償請求権が消滅するという除斥期間の適用により、強制不妊手術が行われた時からすでに20年が経過しており損害賠償請求権が消滅しているなどとして、請求が認められてきませんでした。
■ 大阪高裁の判断
しかし、大阪高裁判決は、以下のとおり判断しました。
(1) 除斥期間の起算点となる「不法行為の時」は優生保護法が改正され母体保護法として施行された前日の1996(平成8)年9月25日である。
(その理由は、強制不妊手術という身体への侵襲に加え、優生保護法の下、控訴人らは一方的に「不良」と認定され、個人の尊厳が著しく損なわれたことも、違法な立法行為による権利侵害の一部を構成するというべきであるから)
(2) もっとも、控訴人らが訴訟を提起した2018(平成30)年9月28日時点では、すでに「不法行為の時」から20年が経過していた。
(3) しかし、除斥期間の規定も例外を一切許容しないものではなく、被害者や被害者の相続人による権利行使を客観的に不能又は著しく困難とする事由があり、しかも、その事由が、加害者の当該違法行為そのものに起因している場合のように、正義・公平の観点から、時効停止の規定の法意(民法158条〜160条)等に照らして除斥期間の適用が制限されることは、法解釈上想定される(最判平成10年6月12日、最判平成21年4月28日)。
(4) 本件については、優生保護法の各規定による人権侵害が強度である上、憲法の趣旨を踏まえた施策を推進していくべき地位にあった国が、障害者等に対する差別・偏見を正当化・固定化、更に助長してきたとみられ、これに起因して、控訴人らへにおいて訴訟の提起の前提となる情報や相談機械へのアクセスが著しく困難な環境にあった。
(5) (4)に照らすと、控訴人らについて、除斥期間の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反するというべきであり、時効の完成を延期する規定(民法158条〜160条)の法意に照らし、訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が解消されてから6か月を経過するまでの間、除斥期間の適用が制限されるものと解するのが相当である。
■判決の評価と今後に向けて
大阪高裁判決は、これまで北海道弁護団が主張してきた内容と重なる点も多く、来るべき札幌高裁の判決に向けて、強い後押しとなる判決です。なにより、裁判所が被害者の叫びに真摯に向き合い、今回の判決を出したことにとても胸が熱くなりました。
原告の小島喜久夫さんも記者会見で、「大阪で勝訴したことを聞いてうれしくてどうしようもない気持ちになった」「札幌高裁での私の裁判でも諦めずに、絶対に勝訴するという気持ちでたたかっていきたい」と決意を述べられました。
大阪高裁判決を糧に、われわれにとっても負けられないたたかいがこれからも続きます。
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