弁護士の小野寺信勝です。
■ 国家戦略特区での農業分野の外国人労働者の受け入れ
昨今、加計学園で話題の国家戦略特区ですが、今国会では特区での農業分野の外国人労働者の受入が審議されています。北海道は受け入れを表明していないため直ちに影響はありませんが、山本内閣府特命担当大臣(地方創世・規制緩和)が地方創世特別委員会で「毎年度適確に評価を行った上で、これを踏まえて全国展開の可否についても政府として適切に判断して参りたいと思います」と答弁していますから、特区での受け入れが全国に波及する可能性は否定できません。
■ 農業分野の労働力の必要性
ところで、農業人口の減少・高齢化が叫ばれて久しいですが、感覚としては理解できるものの、具体的な数字等はあまり知られていないと思います。「農業と経済」2017年6月号に、「日本の農業労働市場はどうなっているのか?多様化する雇用実態」(佐藤忍香川大学経済学部教授)という特集記事が掲載されていました。1985年と2010年とを比較すると、男性の農業人口は765万人から321万人に半減し、基幹的労働力の4分の3は60歳以上と報告されています。ここまで農業人口の減少・高齢化が進行していることに驚かされます。
こうした実態を受けて農業分野では技能実習生を中心とした外国人の受け入れにより労働力不足を解消しようとしています。前記特集によれば、興味深いデータが紹介されていました。都道府県別に農業常雇者数に占める外国人の割合が紹介されていました(2010年)。それによると全国平均は11.5%、北海道は8.3%と全国平均をやや下回っていますが、茨城県は48.9%と農業に従事する常雇者の2人に1人は外国人ということになります。
話が長くなりましたが、このように農業人口の減少・高齢化が急速に進む中で外国人による労働力確保は避けられないと思います。私も外国人労働者を受け入れることには賛成です(但し、技能実習による労働力確保には反対ですが、長くなるのでここでは割愛します)。
■ 国家戦略特区の受け入れの枠組み
政府は技能実習で労働力を補いながら、実習生は労働者ではないと詭弁を続けたことに比べれば、外国人労働者の受け入れを議論していた点では一歩前進と評価できるのかもしれません。
それでは今回の特区に賛成かと言われると、この受け入れ方式には賛成することができません。
特定機関が外国人と雇用契約を結び、農家等に派遣する方法がとられており、人材派遣会社の参入を想定しています。また、技能実習でノウハウを培った事業協同組合による受け入れも予想されます(茨城県は、事業協同組合のために法規制の緩和を提言していました)。
一部週刊誌で某民間議員が人材派遣会社の利益誘導をした疑いが報じられましたが、このような不公正さを一旦横に置くとしても、いくつか懸念があります。
■ 派遣の枠組みによる懸念
派遣の枠組みを採用した理由は、農業には農繁期と農閑期があるため、労働力の需要が時期により異なるので、外国人労働者の派遣によりそれを調整することにあります。そうすると、外国人労働者は常に農繁期の派遣先農家で働くことになり、長時間労働になることが懸念されます(なお、総理大臣指針で総労働時間規制を定めることを検討しているようですが、内容は明らかにされていません)。
また、特定機関にとって、派遣先農家はお客さんにあたるわけですから、農家での不当な働かせ方が発覚した場合に、しっかりと是正させることができるか疑問があります。
さらに、農協のような公的団体だけでなく、人材派遣会社、事業協同組合等も特定機関として参入することになりますが、玉石混交の業者の中から悪質な業者を排除できるのか、また民間主導につきもののブローカーを排除できるか心配もあります。
■ 慎重な制度設計を
外国人労働者は、在留資格、経済的基盤、言語、文化等、日本人より弱い立場にあります。それ故に、不当な働かされ方を甘受せざるを得ないということが見られます。よほどしっかりとした制度設計をしなければ、技能実習制度と同じ轍を踏みかねません。
仮に派遣のような間接雇用の枠組みをとるとしても、人材派遣会社等ではなく、行政が主体となって、農家とのマッチングや受け入れ後のフォロー等を通して、適正な実施を常時チェックする態勢は不可欠だと思います。
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