【紙の鎧を身にまとう前の無防備な人】
弁護士の橋本祐樹です。
先日、2013ユニオンフェア「労働組合って、けっこう凄いんです。」の中の企画「北海道青年フェスタ」で、労働法の基礎知識をレクチャーする講師をしました。
場所は地下歩行空間(札幌駅からすすきのまで南北に通る地下街、通称チカホ)、時間は日曜日の昼下がり。
お話をいただいた際は、「ここを通る人々が、こんな硬派なネタに立ち止まってくれるには、よほどの工夫が必要だな」と思いました。
ところが、準備をする北海道の青年達は、寸劇を準備し、その中で労働法の問題点を指摘するという、道行く人が立ち止まりやすい工夫をしていました。
そこで、私も、「労働法って言われても、何だか難しそう」と敬遠されないように、レクチャーする際に工夫をしました。見ただけでイメージしやすいように、「無防備な人」に「鎧」を着せて行こうと考えたのです。「無防備な人」とは、社会に出るまで労働法の教育を受けていない普通の若者で、「鎧」とは、労働者を保護する各種制度・規定です。
寸劇は、青年達の力がとても入ったもので、実話も交えてリアリティとエンターテインメントを織り交ぜた堂々たる仕上がりでした。「働きはじめのプレッシャー」「職場で働くプレッシャー」「職場で事故に遭った際のプレッシャー」「雇い止めのプレッシャー」「美容室はてんてこ舞い」などのテーマの問題を分かりやすく、あぶり出してくれました。
「働きはじめのプレッシャー」では、労働条件明示義務(労働基準法15条)の話をして、労働者が身を守るために労働条件を知ること、契約書の交付を求めることが重要だと話しました。そして、手に持って説明していたメモを「鎧」に見立てて、「無防備な人」に貼っていきました。
「職場で働くプレッシャー」では、どういう場合がパワハラと言え、どういう対処がありうるかを説明し、「職場で事故に遭った際のプレッシャー」では、労災に遭ったときの対処、その他産休や育休についてもお話ししました。「雇い止めのプレッシャー」では、雇い止めをする際の面談の在り方、解雇の要件などについて説明し、「美容室はてんてこ舞い」では、残業代や最低賃金について、お話をしました。お話をする際に持っていたメモは、全て「鎧」として「無防備な人」に貼られて行きました。働き始め、働いている最中、仕事を辞めるとき、それぞれの過程での問題点についての話が全て終わる頃には、「無防備な人」の体は労働者を保護する各種制度・規定を書いたメモの「鎧」で覆われていました。
日本の教育課程では、労働法の知識を学ぶ機会はありません。だから、社会に出て、使用者が違法なことをしてきても「社会ってそんなもんなのかな」と思い、我慢してしまうのです。そして、その人が労働法を学ぶ機会を得ないまま「社会人」として育ってしまうと、自身も、他の若者に対して「それが社会の在り方ってもんだよ」と違法なことを受忍させようとしてしまうのです。そういう意味では、労働法を学ぶことは、自身を守るという側面のみならず、他者への責任という側面もあるのではないかと思っています。
日曜日の昼下がり、繁華街への道すがら、紙の「鎧」を着た元「無防備な人」を見た若者が、少しでも労働法に関心を持って頂けたら、とても嬉しいです。
今回の企画を通して、若い人にもっと労働法を知ってほしい、労働法を知って身を守ってほしい、そして疑問に思ったら相談してほしい、と思いました。
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