弁護士の小野寺信勝です。
1 労働人口の減少と外国人労働者の増加
外国人就労を拡大する入管法改正案が臨時国会で審議されています。入管法改正案では、「特定技能」という新たな在留資格を創設し、非熟練労働者の受け入れを目指しています。日本政府は入管法改正の理由を「深刻な人手不足に対応するため」と説明しています。
日本社会は少子高齢化により労働人口は減少の一途を辿っています。総務省によれば、15歳〜64歳までの生産年齢人口は、1995年の8,726万人をピークに、2017年には7,629万人まで減少し、2060年には4,793万人にまで大幅に減少すると予測しています。
このような労働力不足を背景として、外国人の在留者数は増加しています。2018年の在留外国人数(中長期在留者と特別永住者の合計)には260万人を超えました。また、前年比でいえば、約18万人、7.5%も増加したことになります。外国人は総人口の約2%を占めるに至っています。
在留外国人の増加は技能実習生と留学生の増加に一因があります。というのも、日本では基本的に専門的・技術的分野での在留資格による就労しか認めていないため、非熟練労働者を受け入れることができません。そのため外国人労働者を「技能実習」や「留学」という本来、労働を目的としない在留資格によって大量に受け入れて労働力不足に対応してきました。現在、28万人超の技能実習生が在留しています。北海道は水産加工と農業分野を中心に約8,500人もの実習生を受け入れています。また、留学生は31万人超在留しています。このように在留外国人の相当部分は技能実習生と留学生が占めています。
2 サイドドアの受け入れと人権侵害
このようないわゆるサイドドアによる受け入れの増加は、同時に、深刻な人権侵害も生み出しました。技能実習生への低賃金・長時間労働、逃亡防止のための強制貯金や旅券の取り上げ、暴力などその被害は深刻です。日弁連は人権侵害の温床である技能実習制度の廃止とそれに代わり非熟練労働者受け入れのための資格創設を求めてきました。また、留学生についても日本語学校が、当初から出稼ぎ目的の学生を受け入れて違法就労をさせたり、留学生の失踪防止のために旅券等を保管するケースも報告されています。
3 非熟練労働者受け入れへの方針転換
政府はついに非熟練労働者受け入れに舵を切ろうとしています。「特定技能」という在留資格を創設がそれにあたります。
「特定技能」は1号と2号に分けられ、1号は「相当程度の技能」がある外国人に通算5年の在留を認めます。この間、家族帯同は認められません。「熟練した技能」を有する場合は2号に移行し、家族帯同は認められ、在留資格の更新も可能とされています。
特定技能1号は農業、建設、介護等14業種を対象、2号は「造船・舶用工業」「建設業」の2業種に絞り、当面の受け入れは行わない見通しと報じられています。特定技能2号の受入業種を制限したのは、永住の道を開く反発する保守派議員に配慮したためと言われています。また、政府は初年度に最大4万7550人、5年間で最大34万5150人を受け入れるとの試算を提示しました。
4 特定技能の問題点
このように外国人労働者の受入拡大に向けた政策転換ですが、「特定技能」の創設にはいくつもの問題があります。
まず、「特定技能」は技能実習生と置き換わるわけではありません。この資格は技能実習修了者を対象にしていて、技能実習制度は廃止されません。つまり、技能実習生の人権侵害の問題は残されたままとなっています。
また、「特定技能」は1号では最長5年間の在留を認められますが、この間は家族帯同が禁止されています。家族が共に暮らせないのは非人道ですし、日本政府も批准する自由人権規約や児童権利条約では家族が共に暮らす権利を保障しているように、人権上も問題があります。
さらに、技能実習制度は民・民での受け入れのためブローカーが介在し、多額の保証金や違約金など悪質なケースが多く発生していました。特定技能も同じ枠組で受け入れるため、ブローカーが介在する問題が残ります。
そもそも論でいえば、入管法改正では在留資格のみを対象とし、その制度設計のほとんどは省令等に委ねることになります。行政に制度設計を一任するものであり、民主主義にそぐわないものです。
そして、なにより外国人との共生の視点が欠如しています。安倍首相は「移民政策ではない」と強調しますが、この発言は外国人を労働力とのみみなし「生活者としての外国人」の側面への無関心さを象徴しています。
国連広報センターによれば、移民に正式な法的定義はありませんが、3ヶ月から12ヶ月間の定住国の変更も移民とみなしています。日本はすでに移民国家であるとも言えるのです。例えば、東京都新宿区の人口の12%超は外国人ですし、北海道でいえば、占冠村は9.3%、仁木町で5.16%、留寿都村で5.7%と高い割合を占めています。
ところが、日本社会では外国人や外国にルーツを持つ人々への差別や偏見が拡がっていますし、行政の多言語対応、日本語を母語としない子どもたちへの学校教育も不十分です。このように現状でも共生政策が十分に議論されているとは言えません。
国会審議を見る限り、外国人をどのように受け入れるかという「入口」ばかり論じられていますが、受入後に外国人を行政、企業、地域社会がどのように受け入れるかという最も大切な点が十分に論じられているとは言えません。やはり現在の国会審議は拙速であると思います。
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