弁護士の川上有です。
● 2018年6月「司法取引」制度が施行される
昨年6月に刑事訴訟法の大幅改正がなされたがその中で「司法取引」といわれるものがある。2018年6月までに施行されることになっている。
● アメリカの「司法取引」と全然違う
「司法取引」。
ハリウッド映画などではなじみのある言葉かもしれない。
検察官「2級殺人で20年」、弁護人「こちらは故殺の範囲で認める、よって3年」最終的に「5年の懲役」で決着、などというやつである。
これは「自分の罪を認めるかわりに刑罰を軽くしてくれ」という意味での司法「取引」だ。これは、わかりにくい言葉だけれども「自己負罪型司法取引」といわれている。
● 日本の「司法取引」
しかし、今回刑事訴訟法において認められた「司法取引」とは、これとは全く違う。ここでの「司法取引」は、「他人の犯罪に関する情報を提供するから俺の刑罰を軽くしてくれ」というもので、「捜査協力型の合意制度」といわれるものです。正しくは「俺の刑罰を軽くしてくれ」というのではなく、検察官に対して「起訴(検察官が裁判を提起すること)しないでくれ」とか「罰金ですませてくれ」「裁判での求刑(裁判で検察官が求める刑罰の重さ)を軽くしてくれ」などといろいろあるのだけれども。
どんな問題がある?というと、とんでもなくいろいろある。いろいろありすぎて説明しきれないので二つだけ。
● ウソの密告による冤罪(えんざい)の発生
ひとつは冤罪の温床になるリスクである。
自己負罪型の司法取引は、自分のことを取引するから、認める事実が真実であろうとなかろうと、自分で認める限りそれでかまわない。
他方、「捜査協力型の合意制度」の場合、他人の犯罪について密告することで自己の刑罰を軽くしてもらうという制度である。だから今度は「真実であろうとなかろうと、当人が認める限りかまわない」ということにはならない。罰を免れたい、軽くなりたいがためにウソの密告をする者は少ないと言い切れない。ウソの密告で捜査対象とされる者(ターゲット)はたまらない。実際、アメリカでの冤罪の最大の原因はウソの密告だという報告もある。ウソの証言でも第三者の証言があると有罪になってしまう、そんなことは日本でもうんざりするほどある。
● 進退きわまる弁護人
二つ目は、弁護士にとっての話である。
日本の制度では、取引には弁護人が必ず加わらなければならないとされている。そして取引の成立には弁護人の同意が必要で、合意内容を定めた合意書面に署名することになっている。この署名の意味である。弁護人は、自分の被疑者が言っていることが真実かどうかは分からない。であるから、この署名は被疑者の情報が真実であることを担保しない(保証しない)ということに、一応はなっている。では、なんのための署名の?よくわからない。が、無意味であるはずはない。
弁護人も被疑者の話がウソではないかと思うこともあろう。そう思いながら署名した場合、虚偽供述罪の共犯とされる危険性がないとはいえない(いまのところよくわからないのだ)。でも、弁護人が「これはウソかもしれない」と思ったから署名しないでいると、被疑者から「弁護人のせいで合意が成立しなかった」と言われ、懲戒処分を受ける危険性がある。
どうやっても弁護人は何らかのリスクを背負うことになりかねない。
検察官に協力することで罪や罰を軽くするという制度自体、問題がありとても賛成できないが、この制度はあまりに問題が多い。
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