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弁護士の笹森学です。

◆暴れる弟を兄が押さえつけて窒息死させたという前回報告した傷害致死事件の裁判員裁判で、2013年10月7日に言い渡された無罪判決が「確定」しました。確定とはその判決がもはや争うことができない状態になり、そのとおり決まって動かせなくなるということです。被告人と検察官のうち、一審判決に不服のある者は14日間以内に高等裁判所に控訴という不服申立ができます。今回、被告人は無罪だったので控訴することはあり得ません。控訴する利益がありませんのでできないからです。控訴する側はもっぱら検察官でした。


◆通常、検察庁では、無罪をもらってしまった検察官が裁判経過などを報告し、起訴検察官や同僚検察官、上司の検察官も加わって無罪判決の検討会が行われます。これを「控訴審議」と言います。そこで議論をしてやはり判決はおかしいとなれば控訴するということになります。今回はどうだったのでしょうか?10月21日のテレビ報道によれば、検察庁では検討の結果「有罪を立証する新たな証拠を得ることは難しく、裁判員裁判で導き出された結果を尊重する」として控訴を断念したということです。同日の夕刊、翌22日の朝刊でも報道されました。


◆抵抗していた弟が身動きしなくなってからも興奮していたのでさらに10分間強く後頸部を押さえ付けていた、という被告人の自白。これが信用できるという証拠として検察官が取り調べを請求した取り調べの様子を録画したDVD。これを見た裁判員は自白が信用できない証拠だと判断しました。判決には、DVDの中で裁判員に疑問を生じさせたシーンが幾つも引用されていました。裁判員が市民の感覚で取り調べの様子を見て、自白が信用できないという結論を導き出した結果は大変画期的なことだと思います。密室の取り調べが、市民の感覚で断罪されたことに外ならないからです。私たち弁護人は、これこそが、まさに「取り調べの可視化」というものだと実感しました。


◆前のコラム(/news/archives/173.html)で、私は「裁判員が取り調べのDVDを見て自白の信用性を否定したこの判決に、さて検察官は控訴するでしょうか?」と書きました。今回、検察官は、まさに裁判員の判断を尊重せざるを得なかったのです。

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