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目次

 弁護士の川上有です。

1 弁護人が取調べに立会ったらどうなるか?

 さて、取調べに弁護人が立会ったらどうなるでしょう。
 暴力  なくなります
 暴言・恫喝  概ねなくなります
 利益誘導 概ねなくなります
 欺罔 なくなります
 黙秘権侵害 概ねなくなります。
 供述を捻じ曲げられる 概ねなくなります。

(1) 有形力の行使

 最近は、警察官や検察官が被疑者を殴るなどの暴力そのものは、さすがに聞きません。しかし、机をたたく、机の脚を蹴るなどの有形力の行使はいくらでも聞きます(プレサンスコーポレーション事件)。しかし、弁護人が立会っている場合にはこれは撲滅できるでしょう(彼らもこれが違法であるとの自覚はある)。

(2) 暴言や恫喝

 弁護人が立会えば、暴言・恫喝もなくなります。すでに可視化(取り調べ状況を録音録画すること)されている事件での暴言、恫喝は明らかに減少しているからです。ただ、いくつかの事件で怒鳴りつけたり被疑者を侮辱したりする取調べが録音録画されています。信じがたいことですが、一般的感覚では到底許しがたい暴言・恫喝も、当の警察官・検察官は、許される内容と考えているとしか理解困難なほどえげつない取調べを平然として行われているので、弁護人が立会ってもなくならないのではないかとの指摘もあります。
 しかし、よほど無能な弁護人でなければ、目の前で違法な暴言・恫喝が行われれば、これをやめさせるでしょうから、ほとんど完全になくなることが期待できます。

(3) 利益誘導

 利益誘導とは、しゃべれば起訴しないとか、釈放するとか、有利な供述調書にするなど、いわば勝手な取引を持ち掛け、捜査官が期待する供述をさせる手法です。利益誘導は、それを守る意思があってもなくても原則違法です。守るつもりがない約束は、次の欺罔にあたりより違法性が強まります。露骨な利益誘導ではなくても、それとなく期待させる言い方も違法です。例えば「お前が素直に話せば、悪いようにはしない」などは、具体的に何を約束しているわけではないように見えますが、身体拘束されている被疑者には、藁にも縋る思いで捜査官が期待する供述をしてしまう危険が大きく十分に違法な利益誘導といえます。
 「素直に話せば」というのも、あくまで捜査官から見たものであり、被疑者の記憶通りというわけではないのです。
 利益誘導は、弁護人が判断できますから、露骨に行うことははばかられます。弁護人が取調べに立会うだけで、ほとんど完全に防止できるはずです。

(4)   欺罔

 欺罔とはだますことです。捜査状況や周囲の者の供述など、嘘をついて被疑者を追い詰めるやり方です。例えば、被害者が「お前が犯人だ」と断定しているとか、共犯者とされる者が「犯行を認めている」などです。被疑者が否認していても、これらの供述があるならば自分も認めないと自分だけが悪者になるのではないかという不安から、捜査官の期待する供述をしてしまうほど追い詰められてしまうことが多々あります。
 このような場合、弁護人が立会っても、弁護人が知らない事情であれば、それが嘘なのかどうかわからないこともあります。それを見越して、警察官・検察官がやはり嘘をつくということはありえます。しかし、その嘘が露見した場合、嘘をついていたことを弁護人が認識できるので、後に露見すると言い逃れできなくなるから、ほとんどはなくなるでしょう。

2 黙秘権行使方針の事件における立会い

 上記は、黙秘権を行使する被疑者にも、あるいはそういう被疑者にこそ盛んにおこなわれる傾向があります。しかし、それらが弁護人が立会うことで概ねなくなることはこれまで述べてきた通りです。
 ただ、それ以外にも、現在、延々と長時間の取調べを行い、被疑者が黙秘権を行使しにくくする取調べが横行しています。そこでは、黙秘を勧める弁護人との間の信頼関係を揺るがすようなことを言ったりします。曰く「弁護人はこの時間について何も知らないし、証拠も見ていない。そんな弁護人のいうことを真に受けて黙秘していると、突然起訴され、困るのはおまえだぞ」「この時間で黙秘なんかして何の役に立つのか。本当に弁護人はそんなことをお前に言っているのか、不思議だなあ、信じられない」なんて、平気で言います。
 黙秘を何日も貫くと、捜査官もいうこと、聞くことがなくなっているのに、それでも長時間取調室に引っ張り出します。そのくせ質問は2つ3つしかせず、あとは双方がだんまりの状態を続けることになる。それでも毎日のように呼び出されるので、被疑者が不安になり疲労する。捜査官は、被疑者のそんな精神状態をうまく利用して供述させる手法もあります。
 こんな取調べ、さすがに弁護人が立会っていれば、そうそうできません。
 少なくとも弁護人の悪口はいえないでしょう。
 長時間双方がだんまりの状況が続けば、弁護人が取調べの終了を促すことになるでしょうから、続けることは困難でしょう。また、となりに弁護人がいれば、被疑者が気持ちを強く持つことができます。
だから、被疑者は、弁護人が立会えば、黙秘権の行使・貫徹が極めて容易になります。

3 供述方針の事件における立会い

 黙秘権を行使するのではなく、積極的に供述する方針の事件も多数あります。
 その場合、現在は、上記のような違法・不当な取調べによって、供述を捻じ曲げられ、捜査官の読み筋に従った、あるいは捜査官が期待する供述をするように追い込まれます。
 しかし、弁護人が立会えば上記のような取調べは行われなくなります。ほかによくある手法として理詰めの取調べというのがあります。過去のある日の出来事は、よく覚えていないのが人の常です。たとえ疑われている犯罪を犯していないことは間違いなくても、その周辺事実はよく覚えていません。そうすると他の客観証拠と突き合わせると、被疑者の記憶に従った供述は矛盾していたり、説明困難であったりする場合はいくらでもあります。
 その点をしつこく突かれていくと自分の記憶に自信がなくなり、可能性として捜査官が示す内容を否定できなくなっていったりします。その結果、犯罪を犯した可能性を否定できないという内容の供述調書が作られてしまうのです。
 しかし、弁護人が立会っていれば、弁護人が被疑者から聞いている内容と異なる可能性を肯定するような供述が行われ始めれば、直ちに接見を申入れ被疑者の真意を確認し、記憶を超えた可能性については言及しない方向で修正できるようになります。
 ですから、供述方針の事件であっても、弁護人が立会う必要性、有効性は厳然として存在することになります。

4 取り調べへの立会いの実現を

 以上のとおり、弁護人の取調べへの立会いは、警察官・検察官による違法・不当な取り調べを行わせないという、あまりに当たり前のことを実現するために、実現させなければならないと考えているものです。
では、弁護人の立会いを実現すると、どのような不利益、不都合が生じ得るのか。次回はこの点についてお話しします。

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