弁護士の佐藤博文です。
自衛官の人権弁護団・北海道は、3月2日、ロシアのウクライナ侵略について緊急声明を発表しました。
政治的行為を厳しく制限され、意見表明する場のない自衛隊員を代弁して、私たち弁護団が「軍人目線」で述べたものです。ご一読下さい。
【緊急声明】
自衛隊員とその家族は、プーチン政権によるウクライナ侵略に
強く抗議し、直ちにロシア軍を撤退させ、これ以上ウクライナ
市民と両軍兵士に犠牲者を出さないことを強く求める。
自衛官の人権弁護団は、自衛隊員やその家族の人権を守る活動をしている立場から、ロシアのウクライナに対する軍事侵略について、自衛隊員やその家族を代弁して次の声明を発表する。
1 自衛隊員は、兵士(軍人)という職業人であるとともに、一市民です。その立場から、プーチン政権のウクライナ侵略によって多数の犠牲者が出ていることに黙っていることはできません。とくに、開戦わずか数日で両軍兵士の犠牲者が数千人に上るという報道には、同じ兵士として胸が張り裂ける思いです。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、国連憲章第2条4項が禁止する「武力による威嚇又は武力の行使」にあたる侵略行為です。プーチン大統領は、自衛権の行使(同第51条)だと正当化しますが、ウクライナがロシアを武力攻撃した事実はなく、全く理由になりません。
ロシア軍は、ウクライナから直ちに撤退すべきです。
2 ところで、ロシアによるウクライナ侵略は、ロシア軍が決定したことではなく、プーチン大統領ら政治家=シビリアン(文民)が決定し、ロシア軍に命じていることです。
思い起こして下さい。湾岸戦争(1991年ー)では、パウエル統合参謀本部議長やシュワルツコフ中央軍司令官らは開戦に反対したのに、ブッシュ大統領やチェイニー国防長官らシビリアンが軍隊を戦争に駆り立てました。イラク戦争(2003年ー)では、米軍幹部や退役将校が、国連憲章違反であることや戦略戦術の無謀さを批判していましたが、やはりシビリアンが軍隊を戦争に突入させました。
その結果どうなっているでしょうか。中東の平和は遠ざかり、派遣米兵のメンタル被害は年を追うごとに深刻になり、自殺者が1日に20人、年間7000人を超えるようになり、オバマ政権は帰還兵自殺防止法を制定し(2015年)、トランプ政権は退役軍人省に自殺防止対策委員会を設置しました(2019年)。自殺者の背後には、その何倍、何十倍もの身体障害や精神障害の退役兵がおり、その家族がいます。
兵士の立場からは、たとえ政治の世界で戦争が終結しても、兵士の体と心に刻まれた戦禍は、一生涯消え去ることはないのです。
3 しかも、プーチン大統領は、核兵器の使用可能性まで公言しています。「ロシアとウクライナは兄弟」だと言ってきた政治家の言葉とは思えません。ロシア兵士やその家族の誰一人望むものでないことは明らかです。
「ロシア軍の士気が低い」と報道されていますが、間違った戦争・違法な命令に対する兵士の拒絶と抵抗の表れと解すべきです。このような「軍紀」違反を行なったロシア兵士の身の安全を憂慮せざるをえません。
他方で、ウクライナは、国家総動員令を発し、18歳から60歳の男性に対して出国を禁止し、家族と切り離して戦争に動員しています。「徹底抗戦」として肯定的に報道されがちですが、兵士や家族の思いは悲痛なものだと思います。
ウクライナでいま起きている事態は、同じ兵士として、余りにも辛く、悲しく、強い憤りを感じざるをえません。
4 自衛隊員とその家族は、日本及び世界の人々に対して、過ちを犯した政治指導者たちとその命令に従わざるをえない兵士を明確に区別し、兵士の不条理な犠牲をこれ以上増やさず、家族をこれ以上悲しませないために、ロシア軍の速やかな撤退と戦争終結に全力をあげることを心から望みます。
2022年3月2日 自衛官の人権弁護団・北海道
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