北海道、札幌を中心とした北海道合同法律事務所が発行する「事務所通信:北の峰」の2010年 新春号をご紹介致します。

 北の峰のご案内

巻頭言  


 昨年は、世界も日本も大きく転換した年でした。アメリカでは初の黒人大統領が誕生し、アメリカの大統領として初めて、核兵器を使用した唯一の国としての道義的責任に言及し、核兵器のない世界に向けて具体的行動をとることを宣言しました(四月五日プラハ演説)。
 日本では、八月三〇日の総選挙の結果、国民に痛みを押しつける「構造改革」「新自由主義」路線を猛進してきた自公政権に代わり、「生活者の党」を掲げた民主党中心の連立政権が誕生しました。選挙の結果によって政権交代が実現したのは、一九二三年以来のことです。当時、女性に参政権はなく、男性も財産のあるごく少数の人しか認められていませんでしたから、今回の政権交代は実質的に、日本の国民が初めて経験する「民主主義」です
 これを生かさない手はありません。どうせ政治は変わらないと諦めて現状に甘んじるのも、この機会を生かすのも、結局は私たち国民です。誰かがやってくれるわけではありません。
 人間らしい生活と未来に希望のもてる社会をつくるために、力を合わせようではありませんか。
 今年が皆様にとって良いお年でありますように。ご健勝をお祈り致します。

2010年1月 北海道合同法律事務所一同

生存権訴訟について―母子加算復活報告― 弁護士 中島 哲

 「当事務所の弁護士が中心となって生活保護母子加算の削減廃止の取消を求めて裁判を進めてきた生存権訴訟ですが、昨年四月に廃止された生活保護の母子加算制度が、一二月に復活しました。生存権訴訟弁護団の活動の素晴らしい成果であり、皆さまに御報告いたします。

母子

 振り返ってみますと、生活保護受給世帯のうち、ひとり親家庭に支給されていた母子加算の削減が開始されたのが、二〇〇五年からのことでした。生活保護受給母子世帯にとって、一カ月二万三二六〇円の母子加算(札幌市・子どもを一人養育する母子世帯の場合)の削減は死活問題でした。そこで、生活保護母子世帯のお母さん達が当事務所の弁護士らとともに札幌と釧路の裁判所に母子加算削減処分取消を求める行政訴訟を提起したのが約二年前の二〇〇七年一二月二〇日のことでした(二〇〇九年一二月現在で全国一高裁四地裁で一二人の原告につき訴訟係属中です)。
 しかし、このような当事者の声にも関わらず、二〇〇九年四月には母子加算はいったんは完全に廃止されてしまいました。

母子

 ところが、母子加算が廃止されたわずか二カ月後である二〇〇九年六月には、民主党、共産党をはじめとする野党四党共同で国会に提出された母子加算復活法案が参議院において可決され、衆議院の解散総選挙における政権交代に伴い、一二月には復活することになりました。
 このように、一度は廃止された生活保護母子加算制度が廃止後わずか数カ月で復活するという異例の事態となった背景としては、ひとえに母子家庭の生活実態や子どもの貧困の問題について国民全体の理解が深まり、母子加算復活に向けての世論のうねりが出来たからでしょう。ご支援頂いた北の峰読者の皆さまに改めて御礼申し上げます。
 もっとも、母子加算は復活しましたが、母子家庭の貧困の問題、子どもの貧困の問題はまだまだ解決したわけではありません。また、ひいては国民全体の格差・貧困の問題にも、取り組んで行く必要があります。
 母子加算の復活は決してゴールではなく、これをスタートとして、当事務所として、皆さまと一緒に手を取り合って頑張っていきたいと考えておりますので、今後ともご支援のほど、よろしくお願いいたします。

労働者派遣法改正の現状 弁護士 長野 順一

 昨年八月の衆議院選挙で、民主党が圧勝し、政権交代が実現しました。民主・社民・国民の三党は、六月二九日、派遣労働者保護のための規制を強化する、「労働者派遣法改正案」を衆議院に提出していましたが、選挙後、あらためて九月一〇日に、同様の内容で改正を行うことについて、三党で合意を確認しました。
 そこでは、『派遣業法』から『派遣労働者保護法』にあらためること、『日雇い派遣』『スポット派遣』を禁止すること、『登録型派遣』を専門業務に限定すること、製造業への派遣も原則禁止すること、違法派遣の場合に直接雇用したものとみなす制度を創設することなどがうたわれています。
 この合意は、製造業派遣を全面禁止していないこと、派遣労働者の均等待遇が「努力義務」にすぎないとされていることなど、不十分な点もありますが、もし、この三党合意の内容で、改正が行われれば、派遣労働者を含む非正規労働者の権利の保護へ向けて大きな一歩を踏み出すものといえます。
 三党政策合意を受けて、長妻昭厚生労働大臣は、昨年一〇月七日、労働政策審議会に対して、今後の労働者派遣制度の在り方について諮問をしました。同審議会では、製造業務への派遣や登録型派遣の今後の在り方、違法派遣の場合の派遣先との雇用契約の成立促進等、派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進のために追加的に措置すべき事項などについて検討を行うものとされており、三党政策合意と労働政策審議会への諮問内容からして、労働者派遣法の派遣労働者保護法への抜本改正は早期に実現できるものと期待されていました。
 ところが、労働政策審議会の審議では、使用者委員は「コスト増で国際競争力が失われれば、製造拠点の海外移転に拍車がかかる」、「登録型派遣や製造業派遣の原則禁止は職業選択の自由を侵害する」などとして、労働者派遣法の改正に反対しています。それどころか、公益委員までもが、「派遣規制を強める必要はあるが、今がそのタイミングかどうか疑問」などとして、改正に消極的な姿勢を示しています。
 企業の国際競争力を高めるためにも、不安定雇用の典型である労働者派遣を規制し、期間の定めのない直接雇用を原則として、「物づくりの技能・技術」の蓄積・継承を図ることが重要です」(自由法曹団要請書)。労働者派遣の現状を野放しに、国民が貧困化する中では、日本の経済の立て直しを図ることも、企業の国際競争力を強化することもできません。また登録型派遣や製造業派遣の禁止は、「間接雇用」という雇用の形態の規制の問題にすぎませんから、労働者の憲法上の勤労の権利や職業選択の自由を侵害するなどという主張も全く根拠がありません。
 厚生労働省の集計では、二〇〇八年度中に派遣労働者として働いた人は延べ約三九九万人と、前年度に比べて四・六%増え、過去最高となりました。また、製造業務に派遣された人は二〇〇八年六月一日現在、約五六万人、前年度比一九・六%増と大幅に増加し、過去最高となりました。
 そのような中で、厚生労働省の発表によれば、二〇〇八年一〇月から二〇〇九年一二月末までの失職・失職予定者は二三万九七五二人にのぼり、そのうち派遣労働者が一四万一六一六人と六割を占めています。しかも、一四万一六一六人のうち中途解除が六万一七九六人にものぼります。
 また自由法曹団の発表した「派遣黒書」では、使用者による安易な派遣労働者の解雇や、偽装請負、派遣期間規制違反などの違法行為が横行していることが報告されています。
 このような事態は極めて深刻であり、労働者派遣法の抜本改正は、一刻の猶予も許されない状況です。
 現在の労働者派遣法を速やかに抜本改正し、派遣労働者保護法のための規制を強化することが、今強く求められています。

B型肝炎訴訟の早期解決で
ウイルス性肝炎問題の全面解決を!
「肝炎対策基本法」成立によせて
弁護士 佐藤 哲之
(全国B型肝炎訴訟
弁護団代表)

一 ようやく「肝炎対策基本法」が成立

ウイルス性肝炎問題の全面解決を!

 昨年(二〇〇九年)一一月三〇日、難産の末、ようやく「肝炎対策基本法」が成立しました。この基本法は、わが国におけるB型およびC型肝炎ウイルスの感染、感染の拡大について国の責任を明記し、研究、治療体制の確立など肝炎対策を総合的、恒久的に行うことを定めたものです。

 基本法は、B型肝炎訴訟原告団・弁護団、薬害肝炎全国原告団・弁護団、そして、日本肝臓病患者団体協議会が早期成立を求めてきたものであり、三団体とも、ウイルス性肝炎問題解決に向けて新たな一歩が踏み出されたものと評価しています。

 しかしながら、この基本法が成立したからといってウイルス性肝炎問題が解決した訳ではありませんし、また、このまま時間が経てば自動的に解決するというものでもありません。大変重要な問題が残されています。たたかいはこれからです。

二 B型肝炎訴訟の早期解決を!

ようやく「肝炎対策基本法」が成立

 第一の問題は、何といっても、基本法で感染や感染の拡大について「国の責任」が明記されたにも関わらず、その被害回復を求めているB型肝炎訴訟について、国には、和解や「救済法」による早期解決の姿勢がみられないことです。
 キャリア化しているB型肝炎ウイルスの感染については、足掛け一八年かけて勝ち取られた二〇〇六年六月の最高裁判決によって、その多くが注射器などの連続使用によるものであることが認められ、国の責任が確定しています。しかし、その後も、国が、同じような被害に苦しむ被害患者の被害回復の手だてを何もとらないため、B型肝炎患者のみなさんは、一刻も早い被害回復と肝炎問題の全面解決を求め、二〇〇八年三月以来、新たな訴訟を提起し、たたかいを開始しました。現在、全国一〇地裁、原告は三八三人に上っています。
 ところが、政権交代した連立政権でも、国は、「いつまでも訴訟を続けていっていいということではないと思う」(山井政務官)と言いつつも、「(最高裁判決の五人の原告らと)同じような方がおられるという可能性は否定はできないので、訴訟の中で事実関係を認定していただいた上で判断するということが基本」(長妻大臣)という答弁に止まり、残念ながら、自公政権の舛添大臣の姿勢と変わっていないのです。そのため、札幌や福岡の裁判所が和解の打診をしても、国は不当にもそれを拒否し続けているのです。

三 抗ウイルス薬にも医療費助成を!

肝炎対策基本法案

 第二の問題は、基本法は、研究、治療体制の確立だけでなく、一五条で、「国及び地方公共団体は、肝炎患者が必要に応じ適切な肝炎治療を受けることができるよう肝炎患者に係る経済的負担を軽減するために必要な施策を講ずるものとする。」と定めました。しかし、これらが予算などでどう具体化されるかはこれからです。特に、この「北の峰」がみなさんのお手許に届く頃には、よい方向で問題が解決されているかもしれませんが、B型肝炎患者が強く求めている抗ウイルス薬にも医療費助成がなされるかどうかが大変重要な問題です。

四 B型肝炎訴訟への一層のご支援を!

B型肝炎訴訟への一層のご支援を!

 国内最大の感染症で、「第二の国民病」とも言われている三五〇万人の肝炎ウイルス感染者・肝炎患者は、毎年四万人から四万五〇〇〇人もの方を肝硬変、肝がんで亡くしています。新たなB型肝炎訴訟の原告も提訴後既に六人が亡くなっています。原告らにはもう時間がありません。
 基本法成立にあたり、マスコミもこぞって、B型肝炎訴訟の早期解決を含め、ウイルス性肝炎問題の全面解決を求めています。B型肝炎訴訟原告団・弁護団はその先頭に立ってたたかう決意です。これからも一層のご支援、ご協力をお願いします。

足利事件
―菅家さんの取調べ録音テープは取調べの可視化を促進する
弁護士 笹森 学

 足利事件とは、一九九〇年五月一二日、当時四歳の女児が足利市内のパチンコ店から行方不明となり、翌一三日に渡良瀬川の河川敷で遺体となって発見されたという事件である。菅家利和さん(当時四五)は、翌年の一二月一日早朝、女児の半袖下着に付着していた精液のDNA型が一致したとして呼び出され、夜半に自白して翌日逮捕、わいせつ目的誘拐・殺人・死体遺棄の犯人とされ起訴され、菅家さんは第一審の途中から否認に転じるなどしたが二〇〇〇年七月一七日上告も棄却され、無期懲役の刑が確定、千葉刑務所に下獄した。しかし、再審請求・即時抗告審の東京高裁(田中康郎裁判長)がDNA再鑑定を実施し、犯人と菅家さんのDNAは一致しないとの鑑定を得て、二〇〇九年六月二三日再審開始決定が下された。

一、足利事件の再審公判は、二〇〇九年一〇月二一日に第一回、一一月二四日に第二回、一二月二四日に第三回の公判期日が開かれました。来る二〇一〇年一月二一日、二二日に第四回、第五回公判で、菅家さんの取調べ録音テープが取調べられます。

二、この取調べ録音テープとは、菅家さんが有罪となった足利事件以外に当時二件の未解決幼女殺し事件があり、被害者が幼女で場所や手口の類似性から同一犯人と見られていたため、菅家さんが取り調べられ、自白したものの証拠不十分ということで不起訴にされた、その二件に関して取り調べられた際にその状況を録音したもので、一五本あります。二〇〇九年八月にその存在が朝日新聞でスクープされ最高検がその存在を認めていたものです。栃木県警にも三本のテープがありました。これらの録音テープは宇都宮地裁の勧告もあり、二〇〇九年一〇月五日に証拠開示されていました。

三、今回、取り調べられる録音テープは四本で、別件の取調べの際に本体の足利事件についても取調べが行われています。四本のうち二本は別件の取調べの際に足利事件にも言及されたが、菅家さんは何も答えず事実上否認していた状況が録音されています。他の二本は、一九九二年一二月七日と八日の検事調べのものです。一二月七日には菅家さんが足利事件について明確に否認する様子が録音されています。ところが一二月八日のものは、検察官が「昨日変なことを聞いた」として自白の撤回を迫るあの手この手の厳しい取調べの様子が録音されているものです。

四、一二月七日には「自由に喋ってほしい」という要請に応じて菅家さんが足利事件を否認し、現在再審公判で維持している罪状認否、意見陳述の概要を素直に話したものです。ところが、一二月八日には検事が「昨日変なことを聞いた」として七日に否認した菅家さんを理詰めで取調べ、最終的には否認を撤回させたのです。八日の最後には菅家さんは「許して下さい、許して下さいよォ」と泣きながら自白を撤回する様子が録音されています。このテープに録音されている取り調べの実態を聞けば、いかに検事の取調べが防御能力のない菅家さんに対し強制となっているかが如実に分かります。

足利事件

五、したがって、この録音テープが公判廷で再生されることになれば、国民の大多数が「取調べの可視化」すなわち取調べの全過程の録音が必要であるかを一目瞭然に理解するでしょう。そして、この録音テープが朝日新聞のスクープがなければ闇に葬られていた事実の恐怖を明確に認識させるものとなるはずです。その意味で、録音テープの取調べは、我が国の「取調べの可視化」の必要性を完膚なきまでに証明することになると思われます。

ベトナムでのローエイシア大会に参加して 弁護士 芝池 俊輝

ベトナムでのローエイシア大会に参加して01

 二〇〇九年一一月九日から一一日まで、ベトナムのホーチミンシティで開かれたLAWASIA(ローエイシア)大会に参加し、日本の研修生制度についてプレゼンテーションをする機会に恵まれましたので、その報告をしたいと思います。
 ローエイシアは、一九六六年にオーストラリアで設立された国際的な法律家団体で、アジア・太平洋地域で活動する法曹団体と法律家個人によって構成されています。その目的は、各国の司法制度、法教育制度が適切に整備・運用されるように協力しあい、地域社会の発展と国際交流を深めるということにあり、現在、二五の国・地域の弁護士会と、五〇以上の国・地域から一五〇〇人以上の法律家が会員として登録されています。
 今回の第二二回大会では、二八カ国から約二五〇人の法律家と、地元ベトナムから約一〇〇人の弁護士が参加し、著名な法律家による基調講演や合計二四ものセッション(分科会)が三日間にわたって繰り広げられました。分科会のテーマは、裁判手続きにおける子どもの権利や公的法律扶助制度のあり方といった人権に関するものから、知的財産権、企業犯罪といったビジネス法に関するものまで実に幅広く、大変興味深いものばかりでした。

ベトナムでのローエイシア大会に参加して02

 各分科会は、三、四人のスピーカーが報告をした後、会場の参加者も交えて意見交換をするという形式で行われ、私は、入管法(出入国管理に関する法制度)の分科会の中で、日本の出入国管理制度についての基調報告をさせていただきました。入管法というテーマの下で私が選んだ外国人研修・技能実習制度というものは、技術移転によって開発途上国の人材育成に貢献することを目的として導入された仕組みですが、この制度については、近時、アジアを中心とした海外から来る研修生・実習生に対する様々な人権侵害(パスポートの取り上げ、賃金未払い等)が多数報告されて社会問題化しているとともに、労働者不足に悩む中小企業が、本来の目的である国際貢献ではなく、低賃金の労働力確保のためにこの制度を利用しているといった制度趣旨と実態との乖離も指摘されています。このような批判を受けて、二〇〇九年七月に入管法が改定されましたが、依然として多くの問題が残っていることから、この機会に、多くの研修生を日本に送り出しているベトナムをはじめとするアジア諸国の法律家にこの問題を知ってもらうことは意義があると考えて、分科会で取り上げることにしたというわけです。開催場所がベトナムという社会主義国であることに加えて、様々な立場の法律家が幅広く参加していること、しかも英語で話さなければならないことから、発表の内容にはかなり気を使いましたが、幸い、分科会終了後に、多くの参加者から、「制度の問題点がよく分かった。」、「(問題の解決には)国際的な取り組みが必要だ。」といったコメントが寄せられ、無事に任務を果たすことができました(もっとも、会場から訛りの強い英語で質問された時は、まったく意味が分からず、頭の中が真っ白になりましたが。)。
 今回のベトナム訪問は二泊三日の強行スケジュールで、ゆっくりと観光することができなかったのが心残りでしたが、活気と躍動感にあふれるホーチミンの雰囲気を満喫でき、よいリフレッシュになりました。

11月,薩摩の小京都知覧を歩いて 弁護士 三浦 桂子

 第二次世界大戦末期の一九四五年四月以降、多くの若い特攻隊員が、鹿児島の知覧から片道分の燃料のみで沖縄へ飛び立ちました。飛行機もろともアメリカの軍艦に体当たりするためです。是非一度訪れてみたいと思っていました。

 鹿児島は錦江湾を抱くように東側に大隈半島、西側に薩摩半島があり、知覧は薩摩半島南部の小高いところに位置します(鹿児島市内から車で五〇分)。霧が発生する知覧は茶の産地です。家々の裏に茶畑が広がる市街地を通り過ぎると、特攻基地があったシラス台地が広がっており、約一五km南下すれば海です。現在ではここに知覧特攻平和会館が建てられています。一週間ごとに出撃していった隊員たちの氏名、出撃する直前に家族に書いた手紙が展示されていました。どの手紙を読んでも天皇のために死ぬことを恐れない内容、次の週に出撃した隊員たちの手紙も、その次の週に出撃した隊員たちの手紙も……。だんだん読むのが辛くなり、外に出ました。

 会館の外には当時隊員たちが暮らしていた兵舎が再現されています。外形は三角屋根を地面に直接伏せた作りで窓はありません。なかは中央が土間で両側の板張りの床が寝る場所で、一人布団一枚分のスペースしかありません。食事などの世話をしていたのは知覧高女の女学生たちでした。隊員と女学生たちの心の交流はあったのでしょうか。写真のなかの隊員たちは笑顔で、出撃を見送る女学生たちは手に手に桜の小枝をふっていました。

 知覧市街に戻り、「富屋食堂」に入りました。ここは隊員たちから「おかあさん」と慕われていた鳥浜トメさんが経営していた食堂で、娘の礼子さん、孫の明久さんが資料館として復元したものです。「おかあさん」の前で見せた隊員たちの様子や気持ちのゆれをトメさんの肉声(ビデオ)を通して知ることができました。隣の富屋旅館は、敗戦後の一九四七年に知覧を訪れる隊員たちの遺族を泊めるために建てられたそうです。大切な息子を失った父親や母親はトメさんの存在にどれだけ慰められたことでしょう。たくさんの見学者がいた知覧特攻平和会館とくらべて、「富屋食堂」の見学者は私一人でした。受付で編み物をしていた女性はトメさんのお孫さん若しくはお嫁さんだったのでしょうか。お話を伺えばよかったと後で思ったのですが、この「富屋食堂」を守ってくださっていることに心のなかでお礼を言いました。

薩摩の小京都知覧を歩いて

 知覧のほぼ一kmの市街地のうち七〇〇mは武家屋敷保存地区です。道の両側に石垣と生垣に囲まれた屋敷が立ち並び、そのうち七軒が庭園を開放しています。門を入ると玄関が直接見えないように屏風のような垣根があり、沖縄を思い出しました。庭園の手法も琉球の影響が強いそうです。あるお宅では自家製の知覧茶をご馳走になりながら鑑賞させてもらいました。

 江戸時代には、知覧港が琉球貿易の拠点だったそうです。海は平和な文化を伝える道でありつづけてほしいという思いを強くしました。

北海道のハンセン病問題を知っていますか?
〜過ちを二度と繰り返さないために〜
弁護士 山田 佳以

 国が全国で行った九〇年間に及ぶハンセン病患者に対する隔離政策は、道内でも行われていました。道内の元患者の方々は、道や警察、一般市民の密告によって、道が東北六県と青森市内に作った日本最北の療養所(現・松丘保養園)に入れられました。故郷と遠く海をへだてた異郷で、多くの人が孤独に亡くなっていったのです。

北海道のハンセン病問題を知っていますか?

 平成一三年五月、熊本地方裁判所は、ハンセン病元患者らに対して不必要に長期間の隔離を継続した国の責任を問う「らい予防法違憲国家賠償請求訴訟」において、原告勝訴の判決を下しました。平成二一年四月には、ハンセン病元患者の被害回復を目的とした「ハンセン病問題の解決の促進に関する法律(ハンセン病問題基本法)」が施行されています。
 しかし、現在においても、入所者や社会復帰者、その家族に対する偏見や差別には根強いものがあります。そうした偏見や差別を解決していくためには、ハンセン病について正しい知識と理解を持つことが大切です。
 札幌弁護士会では、熊本地裁判決以降、毎年、松丘保養園への訪問調査を行っており、私も、昨年の訪問調査に同行し、松丘保養園の方々から直接、貴重なお話を伺うことができました。また、北海道弁護士会連合会と札幌弁護士会は、昨年一二月に、ハンセン病への偏見と差別を告発した映画「あつい壁」の上映会や、ハンセン病の市民フォーラムを行い、たくさんの方々にご来場いただきました。
 これを機会に、北海道におけるハンセン病問題についていっそうのご関心をいただければと思います。

弁護士 笹森学の書評コーナー
 

廃墟に乞う

「廃墟に乞う」 佐々木譲 (文藝春秋)

◆佐々木譲は夕張出身で中標津に在住している。横山秀夫が休筆中の現在、今野敏と並んで私が愛読する推理小説家である。道警の警官を主人公にした「笑う警官」「警察庁から来た男」「警察の紋章」「巡査の休日」「制服捜査」「暴雪圏」を著わしている。前四作は異端児四名の緩やかな仲間が主人公であるが、後二作は十勝の小さな町でたった一人駐在を務める単身赴任の警官が主人公である。

◆「廃墟に乞う」も道警の警官が主人公である。後者に似た一人の警官が主人公の短編連作集で、仙道孝司という休職中の刑事が静養先など行く先々で事件に絡むという設定となっている。しかし特異なのは、休職している理由が捜査の過程でなったPTSDのリハビリのためだということである。一瞬の躊躇から被害女性が殺害され、逃走した犯人も死亡。仙道はその悪夢に苛まれていた。

◆仙道は、休職中であるにもかかわらず事件の渦中に身を置き、殺人に関わる人間を見つめ続ける。そして、やり切れない思いを誰かが公にしなければならない。「あとは警察がやってくれる」という姿勢から「この情報を上げることは自分の義務と考える」心境に変化し、仙道は徐々に刑事魂を回復して行く。その過程を通じて、われわれも殺人事件の背後に潜む人間の業を否応なく追体験することになる。


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