北海道、札幌を中心とした北海道合同法律事務所が発行する「事務所通信:北の峰」の2006年 新春号をご紹介致します。

 北の峰のご案内

北の峰 2009年新春号


新春対談 その1 細川久美子さん/
聞き手・弁護士 笹森学
新春対談 その2 吉根清三さん/
聞き手・弁護士 三浦桂子
生存権裁判から考える 弁護士 中島哲
ついに誕生!札幌市・子どもの権利条例 弁護士 内田信也
自衛隊、イラクから完全撤退 弁護士 佐藤博文
弁護士 笹森学の書評コーナー  
巻頭言  


 新年明けましておめでとうございます。
 オランダ在住のリヒテル直子さんの「残業ゼロ授業料ゼロで豊かな国オランダ」という本を読みました。北欧諸国が教育水準や社会保障で世界のトップにあることは知られていますが、オランダは子どもの幸福度第一位、労働時間が日本の三分の二で生産効率が一・五倍なのだそうです。
 人々が、生活を楽しみ、自分なりの生き方を選びながら働いているオランダの方が、経済効率が良く、教育水準が高く、社会も安定し、人々の目が世界に開かれている。これに対して、人間らしい個性ある生活を犠牲にして、ひたすら牛馬のように働くことにエネルギーを捧げている日本は、それほどの犠牲と努力にもかかわらず、経済効率が低く、社会や家族のまとまりがなく、不幸感が強く、どの時代にもまして不安な状態にある。
 何とも耳の痛い話です。誰がこんな社会にしたのでしょう。でも、この状態に甘んじて受忍するのも、こんなのは御免だと変えていくのも、結局は私たち自身です。誰かがやってくれるわけでもありません。
 今年は総選挙があります。私たちは、改めて「よく学びよく遊べ」「よく働きよく遊べ」と、人間らしい感性と生活を取り戻すために、力を合せようではありませんか。
 今年が皆様にとって良いお年でありますように。ご健勝をお祈り致します。

2009年 新春 北海道合同法律事務所一同

新春対談 その1 細川久美子さん/
聞き手・
弁護士 笹森 学

「強欲資本主義」が自爆し、富める者は税金を使って安全地帯に逃げ、働く者や弱い者が寒風吹きすさぶ荒野に取り残されている。その荒野の地を這って、地道に仲間の安否を気遣う者たちがいる。その本来の責任を果たそうとする労働組合とこぼれ落ちた仲間に手を差し伸べる生活支援NGOの前線で御苦労する吉根清三さん、細川久美子さんのお二人に話を聞きました。

◆ 人間らしく生きる権利をめざして
北海道の生活と健康をまもる会連合会

細川久美子さん
細川久美子さん

【細川久美子さんプロフィール】
一九七八年 道生連の事務局次長になる
一九九一年 道生連 副会長
一九九二年 全生連常任理事を経て二〇〇〇年より全国の副会長として在に至る
一九九二年 障害の生活と権利を守る連絡協議会会長を一〇年歴任
一九九六年 精神障害者を支援する会を立ち上げ、専務理事として現在に至る


弁護士 笹森 学 笹森・ 道生連では具体的にどのような活動を行っていますか?
細川・国民みんなが、人間らしく生きられるように、憲法をくらしに生かす要求運動を広げています。憲法二五条の理念に従い日本の社会保障福祉に関する制度を権利として活用できるようにみんなに知らせ、活用する運動を広げています。
 その運動の一つに生活相談を基本にしています。

笹森・ 相談窓口の時間帯はどのようになっていますか?
細川・ 生活と健康を守る会は、札幌一〇区を初めとして函館、小樽、苫小牧など主要都市にあります。定例では、毎週火曜日に面談を行っていますが、急を要する場合はその都度おこなっています。また電話での相談は、月曜日から金曜日まで午前一〇時から午後四時三〇分まで受け付けています。専門の相談員も配置しています。

笹森・ 細川さんご自身は、どのような活動をしていますか。
細川・ 私は、生活保護を中心とした運動を三〇年間やってきました。全道の苦しんでいる人たちの相談や、健康保険証が奪われて病院に行けない人たちの話を聞いて役所と交渉します。
 また、地域で精神障害者を中心とした人たちの支援も行っています。日常支援から始まり、電話での相談、駆け込みの相談など、めまぐるしく働いています。生活保護の審査請求書などの書類の処理の多くは自宅に持ち帰ってしています。

笹森・ 最近の相談等で特徴的な傾向はありますか?
細川・ 大変複雑化していますね。貧困も複雑化し、離婚しても転居する費用もなく同じ屋根の下で暮らすといった八方ふさがりの相談も多く、相談者の八割が心を病んでいるのも特徴です。会社経営を続けながら生活保護に結びつくケースも出てきています。

笹森・ どのように対処していますか?
細川・ 電話相談で自分を名乗れない人も多いわけです。話していると泣き出す人もいます。
 心を病んでいる人たちは、そのことに気づかずにいます。病院とコンタクトを取って受診に結びつけます。
 家がない人たちのためには理解ある大家さんの協力を得て、部屋を確保し生活保護の申請に同行します。きめ細やかな対応をし、まず心を安定させ、そして安心して仕事ができる環境作りに協力します。

笹森・ 北海道合同法律事務所とはどのような連携をしていますか?
細川・ 相談者の多くは多重債務を抱えており、その整理をお願いしたり、緊急に生活保護などの申請のお手伝いをしたりしています。

笹森・ これまでに、どんな成果がありましたか?
細川・ 弁護士と私たちが支援して人間的な生活を取り戻し元気になっていく人たちの変化を見ています。『笑顔』を見ることができるとうれしいですね。こうした人が今度は私たちと一緒に生活と健康を守る会の運動に参加して下さる喜びは格別です。

笹森・ どんなことがあれば世の中が良くなると思いますか?
細川・ 小泉構造改革は「貧困は自己責任」という政策で貧困と格差を広げてきました。しかし、五〇年以上にわたって貧困と闘ってきた私たちだけではなく、学者や弁護士・司法書士などのみなさんが「貧困の連鎖を断ち切る」運動を広げて行く中で、今まで福祉の谷間でひっそりと生きてきた人たちが声を上げ始めました。
 「人間らしく生きる」という要求を持った人たちが先頭に立って声を上げることが社会を変える力になると確信しています。「母子加算を元に戻して」と生活保護を受けている母子家庭のお母さんが裁判を起こせたことはその一つの例です。

笹森・ 叱咤激励される言葉の数々、元気になりました。困難な世の中だからこそ、お互いに連携をとって頑張りましょう。


北海道生活と健康をまもる会連合会
電話番号011-736-1722

新春対談 その2 吉根清三さん/
聞き手・
弁護士 三浦桂子

◆ 働く人たちの心強い味方
ローカルユニオン “結”(ゆい)

吉根清三さん
吉根清三さん

三浦・ 不況を口実にした大量解雇や一方的な雇い止め、なかには就職内定をもらった企業からの内定取消しも増加しています。実際にそういう場面に遭遇しても、北海道には多くの相談場所があります。そのひとつとして一人でも加入できる労働組合、札幌地区労連ローカルユニオン“結”が、注目を集めています。副執行委員長の吉根清三さんにインタビューしました。

弁護士 三浦桂子 三浦・ どんな人たちからの相談が多いですか。
吉根・ “結”に相談を寄せる多くの人は、中小零細企業で低賃金・労基法無視の労働条件を強いられている労働者です。殆どの場合、職場に労働組合が無くてどこにも相談出来ず、悩み抜いて労基署や労働局労働相談室などに相談してみたものの解決の糸口が見つけられずに電話をかけてきます。また職場に労働組合があっても労使協調路線で頼りにならないからと相談を寄せる人もいます。

三浦・ 相談内容はどのようものが多いですか。
吉根・ 一番多いのは未払賃金、次に解雇です。最近は、倒産の相談が増えています。A社の札幌支店に営業職で勤務していた二〇代前半の青年二人は、札幌支店の業績が振るわないとの理由で支店が閉鎖され解雇されました。二人は、支店の暴力的労務管理に耐え残業手当ももらわず頑張ってきたのに納得できないと“結”に加入しました。団体交渉で時間外手当を二年前に遡って要求し一五〇万円の未払賃金を支払わせました。このような相談の多くは、会社が労働組合の要求を誠実に受け止め、話し合いで解決できています。

三浦・ 話し合いで解決できない場合はどうしていますか。
吉根・ ことさら労働組合を敵視する会社だと、話し合いによる解決が困難な場合が多く、弁護士の助けが必要です。

札幌地区労連ローカルユニオン“結” 三浦・ ご相談者には「弁護士は敷居が高い」「裁判はしたくない」という思いがあるようです。でも、例えば金銭による解決を望む場合や解雇予告を撤回させるような、短期間で解決することを目指す場合、労働審判という制度を活用することができます。弁護士と事前の準備をしっかり整えて申立てする必要がありますが、この準備を通して、私自身、働く皆さんのプライドを肌で感じ逆に勇気をいただいています。
吉根・ 職場で納得のいかないことがあったら、悩んでいないで是非、“結”に相談してください。弁護士もバックアップしています。

札幌地区労連ローカルユニオン“結”(ゆい)
電話番号011-815-4700

―貧困の連鎖を断ち切る―
生存権裁判から考える
弁護士 中島 哲

生存権裁判から考える 二〇〇七年一二月二〇日、当事務所の弁護士が中心となり、生活保護を受けている母子家庭にそれまで支給されていた母子加算の削減・廃止が、憲法二五条によって保障されている生存権を侵害するものであるとして「北海道生存権裁判」を札幌と釧路において提訴しました。これまで、労働事件等に精力的に取り組んできた当事務所が生存権裁判に取り組むことになった背景には、生活保護をはじめとする社会保障制度の崩壊が貧困が世代を超えて再生産される「貧困の連鎖」を生み出すという時代認識と、労働者の最低賃金を規定する機能を有する生活保護基準の切り下げは、生活保護世帯のみの問題ではなく労働者の賃金にも影響してくるという問題意識とがありました。

 そして、二〇〇八年になり、一〇月三日に日弁連人権擁護大会において「貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」が採択されました。この決議は、「貧困の連鎖」の構造に言及するとともに、提案理由において「ワーキングプアの問題は従前から、女性労働者、特に母子家庭に典型的に現れていた」「現状に歯止めをかけるためには、労働問題と生活保護等の生活問題に対する一体的取り組みが不可欠」とするなど、当事務所の問題意識と同様の視点に立つものでした。

 また、この決議は特にワーキングプアの問題を正面からとらえ、非正規雇用労働者の増加に警鐘を鳴らす内容になっておりますが、その後、いわゆるリーマンショックにはじまるアメリカ発金融不況が起こり、日本全国で「派遣切り」等の非正規雇用労働者への攻撃がはじまっております。

 このように、生存権裁判を提起してから一年が経過したいま、情勢はまさに提訴当時の当事務所の問題意識及び人権大会決議に現れた日弁連の問題意識を裏付けるものとなっております。生活保護の問題、非正規雇用の問題、そのいずれもただ単に生活保護受給者の問題、非正規労働者の問題に過ぎないと捉えるのは誤りです。生活保護基準が切り下げられ、非正規労働者の待遇がさらに悪化することは、次には正規雇用労働者の待遇切り下げにつながりかねません。今こそ、全労働者、全市民の結集が必要です。そのために当事務所は北海道の皆さんの力を結集する鍵となりたいと考えております。


〈資 料〉
貧困の連鎖を断ち切り、すべての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議
2008 年10 月3 日  日本弁護士連合会 第51 回人権擁護大会宣言・決議より抜粋

日本弁護士連合会

ついに誕生!札幌市・子どもの権利条例 弁護士 内田 信也

子どもの権利条例01 一・ 平成二〇年一一月七日に開かれた札幌市の第三回定例市議会で、「札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例」(子どもの権利条例)が可決されました。
 私は、「子どもの権利条例制定検討委員会」の委員長として最初からかかわりましたが、平成一八年五月末の「最終答申」を出してから実に二年半…難産でありました。

二・ この条例は、子どもたちにとって大切な権利として
@安心して生きる権利
A自分らしく生きる権利
B豊かに育つ権利
C自分にかかわることに参加する権利
を保障しその権利が侵害された時の救済制度として「子どもオンブズマン制度」を導入しました。それだけではありません。この条例は、「大人」に対して「子どもの成長発達する力を信じよう」、「子どもの気持ちを大切にしよう」というメッセージを送り、子どもとともに「子どもにやさしい札幌のまちづくり」をめざします。

三・ 子どもの視点に立ったまちは、老人にも障害者にも、すべての人にとって住みやすいまちになります。ですから、議会では「全会一致」で可決されて当然なのですが、何故か強硬に反対する大人たちがいます。特に、自民党が最後まで反対しました。理由は、@子どもには権利よりも責任・義務を教える方が大切である。A子どもの権利を認めるとそれを悪用する子ども・保護者・教師が必ず出てきて教育現場に混乱をもたらす、というものでした。

四・ みなさんお気づきのように、だんだん大人の社会そのものが危うくなってきました。格差社会が進み、ますます競争を強いられ、年間の自殺者が三万人を越える日本の社会。子どもの権利に対し顔をしかめ、子どもの力を信じることのできない大人たちというのは、自分の生き方に自信のない、不安だらけの人たちなのです。

子どもの権利条例02 五・ 条例の前文の書き出しは、「すべての子どもは、未来と世界へ羽ばたく可能性に満ちた、かけがいのない存在です。」となっています。子どもは夢と希望のかたまりです。
 「子どもの権利を尊重する」ということは、子どもの育つ力と可能性を信じ、やさしいまなざしで、子どもたちを育むということです。その心が日常生活の中で活かされることによって子どもに笑顔と希望がもどってきます。それとともに、大人の中に「札幌の未来を子どもとともに考えよう」という意識が少しずつ広がっていき、その結果、子どもも大人も幸せな、平和で世界につながる札幌が生れるのです。

六・ 札幌市は、親の国民健康保険料滞納が原因で無保険の状態となっている一八歳未満の子どもに一二月一日から保険証を交付することを決めました。「一八歳未満」というのは全国で初めてのことです。これは、子どもの「安心して生きる権利」を大切にする、子どもの権利条例を制定した札幌市ならではの施策といってよいでしょう。このように、子どもの権利条例は、なかなかの力をもっているのです。
 みんなで、子どもの権利条例を学び、大きく育てましょう。

自衛隊、イラクから完全撤退
全国訴訟と名古屋違憲判決が国民世論を牽引
再び過ちを犯さないために徹底した検証を!
弁護士 佐藤 博文

イラク被害 一・  昨年一一月二八日、政府はイラクからの航空自衛隊の撤収を決定した。年末までに撤収が完了し、二〇〇三年一二月から丸五年に及んだ自衛隊のイラク派兵に終止符が打たれた。この間、わが国が「参戦」したイラク戦争は、イラクの人々の死者一〇〇万人、難民は国内外で五五〇万人を生み出した。
 日本人も五名が殺害され、五名が人質になるなど、平和憲法の下であってはならない犠牲、人権侵害を生んだ。
 米英が一方的に仕掛けたイラク侵略戦争に、日本政府が無批判に支持し、五年もの間、派兵し続けたことに、改めて怒りを込めて抗議する。

二・  昨年一二月末の段階で、派兵を継続している国は、米、英、豪、エルサルバドル、エストニア、ルーマニアの六カ国のみである。そのうち、米軍は一昨年末に増派して一五万人規模で駐留、英軍は戦争開始時の四万五〇〇〇人に対して現在は四一〇〇名、豪軍は主力部隊が撤退し、偵察等で三〇〇名が暫定的に残っているだけである。結局、米軍による占領支配だけが残った。
 一体何のための、誰のための戦争だったか。日本は、アメリカの侵略戦争に「多国籍軍」という粉飾役を担い、アメリカの分け前に与る、かような構図がはっきりと見える。


憲法判決 三・ 日本政府が自衛隊をイラクに派兵しようとしたとき、北海道の元自民党代議士だった故箕輪登氏が、政府見解である「専守防衛」の立場から、全国で最初に派兵差止訴訟を提起し、「平和に右も左もない」と派兵反対の一点でスクラムを組んだことは、歴史に残るたたかいとなった。
 イラク派兵差止訴訟は、本件を皮切りに、全国で一一地裁・一四訴訟、原告数約五七〇〇名、代理人数約八〇〇名という、戦後最大の憲法訴訟に発展した。敗訴判決の中にも前進の芽を見い出し、事実と論理で裁判官を説得し、遂に本年四月一七日、名古屋高等裁判所で画期的な違憲判決を勝ち取った。

イラク空自撤収開始 四・ この判決直後の四月二五日、衆議院安全保障特別委員会で石破防衛大臣は、名古屋判決の今後への影響力を聞かれて、「(高裁判決は)これはひとつのオーソリティーだと思うのですね。…この判決がもつ意味というのは、これはあるだろうな、なければおかしいということです」と、派兵継続は困難になったと観念したともとれる発言をしていた。
 全国の訴訟と名古屋違憲判決は、平和を願う多くの市民に勇気を与え、大きな希望をもって受け止められた。全国の訴訟と、違憲判決と、市民の結びつきが、イラクからの自衛隊の撤退を求める大きな世論となり、それが今回の撤退につながった。





イラク崩壊 五・ 完全撤退の一方で、看過できない問題も同時に起きている。航空自衛隊のトップだった田母神航空幕僚長は、憲法の平和主義を全面否定する懸賞論文を書いていた。「我が国は蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者なのである」、「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である」などと歴史を歪曲し、日本のアジア諸国に対する侵略戦争を正当化し、「自衛隊は領域の警備も出来ない、集団的自衛権も行使出来ない、武器の使用も極めて制約が多い」「攻撃的兵器の保有も禁止されている」等と、自衛隊に対する制約を、口をきわめて非難、攻撃した。
 これは、憲法尊重擁護義務を負い、政府の指揮命令に従うべき義務を負う軍事組織の長である航空幕僚長の地位とは全く両立しない。このような人物が、重装備でのイラク派兵の責任者だったことに、我々は驚き、背筋が寒くなった。我々は改めて、イラク派兵にシビリアンコントロールが効いていたのか、徹底的に検証する必要がある。

最高裁 六・ もう一つは、昨年一〇月、政府が竹内行夫元外務事務次官を最高裁裁判官に任命したことである。竹内裁判官は、二〇〇五年まで外務事務次官を務め、小泉政権の下でイラク派兵を進めた張本人である。過去に、外務省からは六名が最高裁裁判官になっているが、外務次官経験者で最高裁裁判官となったのは下田武三氏ただ一人である。
 その下田裁判官は、最高裁裁判官任官直後に「裁判官は体制を批判してはならない」と「体制絶対擁護発言」を堂々と行った人物であり、突出した反人権的思想の持ち主として知られ、一九七二年の国民審査において、一五・一七%という、戦後最高の不信任率を獲得した。
 政府の今回の最高裁人事は、名古屋高裁違憲判決に対する対抗的人事、そして、今後増大するであろう自衛隊・米軍関係訴訟を見据えた対司法シフトと言わざるをえない。政治部門と司法を分離した三権分立の基本原理に反する人事であると言わざるをえない。

七・ 侵略戦争に加担した国民として、我々はどうすべきか。原告だった亡松田平太郎氏の地裁での意見陳述を紹介したい。
イラクデモ  「戦後六〇年、この国のかくも無惨な姿を見るとは!との思いは消しがたく心の中を去来する。しかし、それ故に私たちは「平和のうちに生存する権利」(憲法前文)を確認する。記憶し続けること、憶えているということが、弱い民衆の武器である。我々が抵抗する唯一の道は、記憶すること、決して忘れないこと(ミラン・クンデラ)を歴史的転換期のいま、あらためて想起します。」
 日本国憲法の平和主義を永く確立するには、今回イラク戦略戦争に加担したという深刻な負の歴史的事実を、二度と過ちは繰り返さないとの決意とともに、私たち日本国民の記憶の中にしっかりと留める必要がある。

弁護士 笹森学の書評コーナー
 

「強欲資本主義ウォール街の自爆」 神谷秀樹 (文春新書)

◆アメリカ製金融経済の破綻をこれ以上なく言い当てた「強欲資本主義ウォール街の自爆」(神谷秀樹・文春新書)はこう書いた。「日本もアメリカも、経済社会がバブルにまみれ、強欲と拝金主義に席捲されたときに、人の心から大事なものが失われてしまった。なんでもデジタル志向で、『0か1』しかない。その中間を配慮できない。この思考方法が社会を大きく分裂させてしまった。最悪のものが、『勝ち組・負け組』の分類だった。日本はその昔自分達を『大和の国』と呼んだ。大きな『和』のある国、という意味である。しかしどうだろう。アメリカにおいてファーザー・ロンが『建国以来この国を纏めて来た倫理観や価値観が分裂してしまった』ことを嘆く以上に、日本における『和の心』は失われ、人と人の繋がりは希薄となり、社会は分裂していっているのではないだろうか。……日米国民ともに、今こそ立ち止まって、自分達が真に望む経済社会とはどんなものかを考え直すべきだと思う。」(二〇三〜二〇四頁)


「日本でいちばん大切にしたい会社」 坂本光司 (あさ出版)

◆この深刻な危機感を体感している企業実践がある。障害者雇用率七割を誇るダストレスチョークを製造する日本理化学工業、社員の幸せのため戦わない経営を貫き四八年間増収増益を続ける伊那食品、石見銀山麓に位置し世界に発信する義肢装具製造の中村ブレイス、地域に根ざし人と心を繋ぐ経営を貫く柳月、あなたのお客で本当に良かったと称賛される手作り経営の杉山フルーツの五社が紹介されている。その本質は、@社員とその家族の幸せ、A下請企業の社員とその家族の幸せ、B顧客の幸せ、C地域社会を幸せにし活性化させる、そしてD株主・出資者の幸せという優先順位を堅持してリストラなどせず経営していることである。坂本光司「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)に紹介されているこれらの会社こそ、強欲資本主義の対極にある「光」だと思う。


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