北海道、札幌を中心とした北海道合同法律事務所が発行する「事務所通信:北の峰」の2006年 新春号をご紹介致します。

 北の峰のご案内

巻頭言  


 財団法人日本漢字能力検定協会が公募で選んだ二〇〇七年の「今年の漢字」は、「偽」だった。二〇〇七年は、食肉の偽装に始まり、野菜の産地偽装、加工食品の原材料偽装、大手菓子メーカーやファーストフード店、名門の老舗料亭の賞味期限改ざんなど身近な食品に次々と「偽装」「偽り」が発覚した。加えて英会話学校の偽装が明らかになり、さらには政治資金や年金記録でも偽りが明らかになった。

 数々の「偽り」の中でも、働く人達にとって見逃せないのが「偽装請負」だ。

 一昨年から昨年にかけて、キャノン、トヨタ、松下など日本を代表する企業グループで、偽装請負が行われていたことが明らかになった。企業が労働者を指揮命令して仕事をさせるには、直接雇用するか、労働者派遣法に基づく使用者としての責任や労働安全上の義務を負う「派遣契約」を結ぶ必要があるのに、そうした責任も義務をも負わずに済むように、「請負契約」を結んだように偽っていたのだ。
 ところが、偽装が発覚するや、その当事者であるキャノンの社長で日本経団連会長の御手洗氏は、自ら議員を務める経済財政諮問会議で、「偽装請負のおかげで産業の空洞化が抑止できている」などと、「偽装」を正当化する開き直りをして、「経営者の立場と諮問機関メンバーの立場を混同するもの」と、世間から非難を浴びた。
 「企業の利益になれば、消費者や経済的弱者を欺いてもよい」というのが、御手洗氏も含めて、「偽り」の当事者に共通の本音だ。
 今年二〇〇八年こそ、我々は、これらの「偽り」にごまかされない、「賢い」国民になりたいものだ。

2008年 新春 北海道合同法律事務所一同

戦争大国に突き進む「自衛隊の現実」 弁護士 佐藤 博文

◆ 自衛隊における「規律」とは何か
東国原・宮崎知事の「徴兵制あってしかるべき」発言を批判する

「悩める自衛官」 一・宮崎県の東国原知事が、昨年一一月二八日、若手建設業者らとの懇談会で、「徴兵制があってしかるべきだ。若者は一年か二年くらい自衛隊などに入らなくてはならない」「若者が訓練や規則正しいルールにのっとった生活を送る時期があった方がいい」等と発言し、記者から真意を問われても撤回しなかった、と報道された。
 彼は、巷間「教育の荒廃」「社会規範の崩壊」とされる問題に対するアイデアとして言ったつもりだろうが、余りにも無知で、非常識である。

二・いま私の手元には空幕法務課の事務官が書いた或る「研修論文」があるが(非公開文書)、それには次のように書いてある。
 「社会の秩序維持には、最低限度の道徳規範が必要であり、これに違反した者を処罰するために、刑法が定められている。そして、一般市民を裁くには普通裁判所がある。
 一方、軍は武器をもって外敵と対戦する戦闘集団である。ここでは戦時、通常の道徳規範に反する器物の損壊、人員の殺傷が公然と行われ、生命を省みない危険な行動が求められる。
 そこで、軍では、軍人の基本的人権が制約され、組織に特別の秩序を科し、任務を強制する等、行動を強く規制する必要があった。これがいわゆる軍紀の保持である。」
 要するに、軍隊における「規律」の本質は、東国原知事が想定しているような「通常の道徳規範」ではなく、一般社会では絶対に許されない「器物の損壊、人員の殺傷」などの戦争遂行行為を、自他の生命を省みないで公然と行える「規律」なのである。

三・さらに私の手元には、新入隊員の教育訓練中に配布される「職場での『躾(マナー)』、「躾」と題するそれぞれ一〇数頁にわたり、驚くほど事細かに書いた文書がある。その中に、「寸言」として次のような記載がある。
 「今の若者は社会常識にうとく、礼儀作法をわきまえないという批判を聞く。これは何も若者に限ったことではなく、日本の社会全般にわたって共通の問題である。かって東洋の君主国と言われたわが国は、太平洋戦争が封建制度の否定とともに古来の美風も崩壊して、それに変わるべき新しい規律は誤れる自由主義の名目の下にいまだ固定化していない。」
 自衛隊の「規則正しいルール」は、憲法の民主主義、人権尊重主義を否定し、敵視する発想に立っているのである。

四・しかも、その内容たるや、例えば「第二章日常生活におけるしつけ」をみると、トイレット、電話、食事等とまるで幼児にしつけるかのごとき内容で(だから「躾」なのだろう)、最後が「H語の限界」で、「ユーモア、ウィットのないH語はするな」等とあり、自衛隊はユーモア、ウィットのあるH語を教えるのか、と笑うしかない代物である。

五・この一方で自衛官の自殺は、毎年一〇〇人以上で、一〇万人当たり三八・三人(二〇〇六年度)、人事院がまとめた国家公務員の一七・七人の二倍強となっている(一一月一二日道新)。さらに、インド洋やイラクなどへの海外派遣任務についたのべ約一万九七〇〇人のうち、一六人が在職中に自殺しており(一一月一三日産経新聞)、これを一〇万人当たりにすると約八一人ということになる。
ここに、「規律」とか「崇高な使命」の美名の下で、人間性や独立した人格を否定された自衛隊員に起きている「人権侵害」の現実をみることができる。


自衛隊イラク派兵差止訴訟(箕輪訴訟)
真実追求と憲法判断から逃げた不当判決

自衛隊のイラク派兵差止め北海道訴訟 判決報告集会 一・昨年一一月一九日、札幌地裁(竹田光広裁判長)は、派兵差止請求を却下、損害賠償(慰謝料)請求を棄却とする不当判決を言い渡しました。
 本訴訟は、自衛隊のイラク派兵は、自衛隊創設以来の政府見解「専守防衛」に反するとして、その与党に身を置いてきた故箕輪登氏が二〇〇四年一月二八日に提起した訴訟です。その後、憲法九条と自衛隊に関する憲法解釈の違いという「大異」を捨て、海外派兵は違憲という「大同」で一致した道内三二名の識者が追加提訴しました。

二・裁判では、イラク戦争が国際法違反の侵略戦争であること、自衛隊の活動実態が「武力の行使」にあたること、「人道復興支援」の仮面の下で陰惨な戦争加害行為を行ったことを、のべ二六名の原告意見陳述、一四三九点の書証、箕輪登氏と山田朗氏の証人尋問などによって明らかにし、憲法が国民に保障した「平和のうちに生きる権利」が侵害されたとして、自衛隊イラク派兵の違憲性を真正面から訴えてきました。

三・しかし、判決は、平和に生きる権利の具体的権利性を認め、自衛隊の海外派遣が違憲判断の対象になり得ることを認めた昨年三月二三日名古屋地裁判決からも大きく後退するものでした。
 これに対し、亡くなった箕輪登氏と松田平太郎氏を除く原告三一名全員が控訴し、道内一一七名、道外三名の合計一二〇名が代理人に就任しました。
 憲法の平和主義と「法の支配」が深刻な危機にさらされているいま、本訴訟を通じて、戦後の日本国民が築きあげ共有してきた憲法九条と「平和に生きる権利」を守り抜くために全力をあげる決意です。


現職女性自衛官人権裁判
暴行事実に対し国が認否しない異常さ!

航空自衛隊パンフレットより
航空自衛隊
パンフレットより

 二〇〇七年五月八日提訴以来、弁護団は、支援する会の皆さんとともに、署名、激励、募金、傍聴など、全国の皆様の応援を得ながら、取り組んできました。
 特に、六月一一日第一回弁論は、原告の毅然とした意見陳述とともに、この日付を以て加害者が配転されるという画期的な日となりました。五月末に(遅きに失しますが)警務隊が加害者を検察官送したことも判明しました。
 八月二七日に第二回弁論がありましたが、国は何と加害者の暴行行為について「不知」(=知らない)と答弁し、事実関係の答弁を一切拒否する挙に出ました。検察官送致と全く矛盾する態度です。一〇月一五日の第三回弁論でも、重ねて国の応訴態度を厳しく批判し、裁判所も国側に再検討を促しました。
 弁護団は、引き続き国の姿勢を徹底的に追及します。他方で、事実経過を具体的詳細に書面化する作業と録 音テープ反訳など立証に向け全力をあげています。
 皆様から寄せられた署名は、第三回弁論までに、裁判所宛合計八四四八筆を提出し、防衛大臣宛八〇八〇筆を防衛省(東京都新宿区市ヶ谷)に持参して提出しました。
 また、皆様からの募金は約五五万円に達しました。ありがとうございます。
 しかし、原告支援、証拠テープの反訳、弁護団活動、支援する会H P の維持などを考えますと、引き続き皆様の署名、募金などのご支援を心から訴えます。

生存権訴訟にご支援ください 弁護士 安部 真弥

生存権裁判にあなたのご支援を  現在、母子加算カットが生存権等を侵害するということを理由に、生存権訴訟が札幌地裁に提起されています。
 母子加算は、生活保護を受けている者で、ひとり親世帯で児童の養育に当たる者を対象に支給され、憲法第二五条一項にいう健康で文化的な最低限度の生活を国民に保障するための制度です。なお、平成一七年三月までは、一級地で月額二万三二六〇円が支給されていました。
 この母子加算を、厚生労働省は、一六0一八歳の児童を養育するひとり親世帯については平成一七年度から、一五歳以下の児童を養育するひとり親世帯については平成一九年度から、それぞれ三年かけて段階的に削減し始めました。最終的には、母子加算はなくなるのです。
 この母子加算カットにより、ただでさえ生活が苦しかった、原告らをはじめとする被保護母子世帯の生活は、さらに追い詰められました。
 子どもを塾に行かせてやれないばかりか、高校に進学させてやることも難しくなってしまった家庭。子ども達に食べ物を満足に食べさせてやることすら困難な家庭。彼らは、切り詰めて切り詰めてなんとか生活することだけで精一杯で、人間らしい豊かな生活とはほど遠い生活を強いられています。
 このような結果をもたらす母子加算カットは、憲法第二五条の保障する生存権、児童の権利条約第二七条の保障する児童の生活水準を侵害する、違法・違憲な処分にほかなりません。また、母子加算カットという不利益変更には「正当な理由(生活保護法第五六条)」などなく、生活保護法第五六条にも違反するのです。
 人間が生きていくうえで最も基本的な権利である生存権をはじめとする前記諸権利を、国家が侵害するという異常な事態を看過するわけにはいきません。
 原告ら及び全ての被保護母子世帯が、毎日家族で笑いあえる、ごく普通の暮らしを送ることができるように、我々北海道生存権訴訟弁護団も頑張っていきたいと思いますので、どうか皆さんも、生存権、貧困問題に興味をもち、ご支援下さいますようお願い申し上げます。

薬害肝炎訴訟への取り組み
北海道で唯一の代理人として
弁護士 中島 哲

「沈黙をこえて」  突然ですが、皆さんは、薬害肝炎訴訟(C 型肝炎訴訟)をご存じでしょうか。
 最近は、T V のニュースや新聞等でとりあげられることも増えてきたので、ご存じの方も多いかも知れませんが、血液凝固因子製材(フィブリノゲン・クリスマシン等)の投与を受けたがためにC 型肝炎に感染させられた被害者らが原告となって国及び製薬会社(田辺三菱製薬(旧三菱ウェルファーマ))を被告として損害の賠償を求めている裁判です。
 問題の血液凝固因子製剤は、数千人ないし二万人以上の供血者の血漿をプールしたものを原料として作成されており、供血者のなかに一人でもウイルスの保有者がいると、プール血漿全体が汚染されてしまいますので、ウイルス混入の危険性が極めて高い製剤です。
 私は、司法試験合格直後に、原告の一人に会いました。まだ二〇歳前後の彼は、「毎朝起きると、『今日も生きてる』と確認するんです。」と言いました。通常であれば、死ぬことなど考えもしないはずの若者が毎日死を考えている、彼の言葉を聞いた私は、弁護士になったら必ず薬害肝炎弁護団に入ることを決意しました。そして現在、北海道で唯一の薬害肝炎弁護団員として活動しております。

改正パート法が4月1日から施行されます 弁護士 三浦 桂子

ツルコ:子どもも4 月から小学校に入るし、そろそろパートで仕事をしたいと思っているの。
マツコ:私は去年パートで正職員とほとんど同じくらい働いていたのに、労働条件がはっきりしなくて結局辞めちゃったのよ。

改正パート法 労働条件の明示
 労働基準法で、事業主は基本的な労働条件(契約期間、賃金の決め方、働く場所・仕事の内容、始業及び終業の時刻、休日など)について文書を交付して明示しなければならないと定められています。
●今回の改正では、労働基準法の義務に加え、特にトラブルに起きやすい事項(昇給・退職手当・賞与の有無)についても、文書(ファクシミリ、電子メールも可)で明示が義務化されました。⇒違反の場合は10 万円の過料。

改正パート法 差別的取扱いの禁止
●その働き方が正社員と同視できる状態となっているパートについては、その待遇についてパートであることを理由とした差別を禁止されます。
※しかし、今回の改正は、私たちが一番強く求めてきた均等待遇について、正職員並みに働くごく一部のパートだけにしか認めないという極めて不十分なものです。

ツルコ:差別禁止が明示されたことは嬉しいけれど、まずは最初の一歩ということね。

いじめが「急増」?
文科省〇六年度・問題行動調査の「怪」と
そこで問われるもの
弁護士 内田 信也

 文科省は一一月一五日に〇六年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」の結果を発表しました。それによると、いじめの認知件数は、一二万五〇〇〇件弱にのぼり、前年度(約二万件)の六・二倍に、跳ね上がったのです。「いじめ」の定義が今年から「当該児童が一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」と今までの「一方的に」「継続的」「相当の苦痛を与えた」などといった主観的な要素が削除されたとはいえ、この増えかたは異常です。

 そもそも〇六年になって全国的に学校現場で突然いじめが増えたなどということはありません。この結果は、今までいじめで苦しんでいる子どもたちがいるのにも関わらず、学校が、その事実を正視しようとせず、子どもたちを切り捨ててきたことの「自白」にほかならないと思います。

 昨年秋、全国各地でいじめを訴えて命を絶つ子どもたちが続きましたが、今の学校は子どもたちにとって、かなり息苦しく、ストレスフルな場所であることを知る必要があります。子どもの権利条約三一条は、子どもたちに「休息の権利」を認めています。そうです。学校に行くのが辛かったら、休んでいいのです。命を絶つことはありません。いじめ「急増」の「怪」はそのことをわれわれ大人に教えてくれているのではないでしょうか。

賃金債権を税務署が全額差押え?
〜派遣労働の新たな問題点
弁護士 中島 哲

 私は、つい最近、とても悔しく、また、憤りを感じる事件がありました。それは、派遣労働者の給料となるべき、派遣先から派遣元への派遣代金を税務署に持って行かれるという事件でした。

 私は、当事務所の佐藤博文弁護士とともに、ある事件で労働者数十人の給料を確保すべく、派遣先から派遣元への派遣代金債権の仮差押えに成功しました。ところが、その矢先に税務署が来て、派遣会社が税金を滞納しているとして、派遣代金を差し押さえたのです。 私たちは、何度も税務署に赴き、交渉しました。労働者も、「このままじゃ年を越せない。」と涙ながらに訴えました。しかし、結果は覆りませんでした。

 労働者自身が税金を滞納している場合でも、給料の差押えは四分の一しか許されません。しかし、これが派遣代金という形になると、労働者自身が税金を滞納したわけでもないのに、全額持って行かれてしまうのです。

 派遣代金とは、最終的には労働者に支払われるべき給料となるのは自明の理で、給料債権ではない、という形式論理で全額を持って行く税務所は、絶対に間違っています。派遣労働にはこのような問題点もあるのです。

弁護士 笹森学の書評コーナー
 

「桶川ストーカー殺人事件 - 遺言」 清水 潔(新潮文庫)

「桶川ストーカー殺人事件 - 遺言」 ◆ 一九九九年一○月二六日白昼、埼玉県JR桶川駅前で当時二一歳の女子大生猪野詩織さんが刺殺された。警察は黒いミニスカート、厚底ブーツ、プラダのリュック、グッチの時計など詩織さんの服装を詳細に発表、イメージに囚われたメディアは彼女の異性交友関係が派手かのように推測を垂れ流す。

◆ そのイメージに違和感を持って取材を続ける著者はFOCUSの事件記者。そして被害者の友人から驚愕の証言を聞く。「詩織は『私が殺されたら犯人は小松だから』と言い遺していた」、「詩織は小松と警察に殺されたんです」。

◆ ストーカー被害を埼玉県警に訴えながら放置され、恐怖と無念の中で殺された被害者の遺言を受け取った瞬間である。

◆ 以降、著者は地を這う取材を重ね、遂に実行犯の顔写真の撮影に成功。決定的スクープ写真。また「ありがとうございます。詩織のことをひどく書かないでくれて」と友人に感謝され、詩織さんの両親から電話を受ける。「信頼できる記者さんだと言われたので」。

◆ さらに再び驚愕の証言を聞く。騙されて告訴を取り下げさせられた。

―記者クラブ未加盟の週刊誌記者が、被害者からの視点を墨守し、犯人たちと警察を追い詰める手に汗握る感動の秀作ノンフィクション。「事件報道」を深く考えさせられる。


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