北海道、札幌を中心とした北海道合同法律事務所が発行する「事務所通信:北の峰」の2006年 夏号をご紹介致します。

 北の峰のご案内

巻頭言  

 北朝鮮に対する国連安保理での非難決議の過程で、「敵の基地を叩くことは自衛の範囲だ」という妄言を聞いた。角を衝き合わせると硝煙と死体を招くことは、イラクの政情不安定、イスラエルのレバノン侵攻、アメリカ流外交の顛末を見ても明らかだ。しかし、旧ユーゴ消滅の過程で「正義の戦争」が議論されて以来、憎悪と殺戮のパンドラの箱が開いたままだ。
一転、目をわが国に向けると、拝金主義への自由が人の心を殺戮している。子どもを殺し老人や身障者から金を奪い心の病が増えている。悪意と暴力が憎悪と殺戮へのパンドラの箱を開く。
「パッチギ!」(井筒和幸監督)は朝鮮学校の女子高生に恋する日本人高校生の話である。「私を好きなら朝鮮人になれる?」と問われた彼は同化を試みるが、彼女の仲間が撲殺され葬式を手伝う彼に長老が強制連行の「恨」(ハン)を語り、彼は言い知れぬ深淵の前に胸を焦がし、暴力と理不尽に対し熱唱する。
映画館から出ると、憎悪の連鎖の中、世界中で積み上げられる夥しい死体を見ざるを得ない。しかし若い二人が憎悪の桎梏を超越する予感をきらめかせた「パッチギ!」のラストシーンは、きっとまだ「希望」のままだと信じたい。

二〇〇六年七月北海道合同法律事務所一同
イラク戦争と憲法第9条
いま私たちは、米英のイラク侵略戦争に全面協力し、
憲法9条改正を先取りしています。
これからの日本はこれでいいのでしょうか。
弁護士 佐藤博文

◆ 覚醒せよ!イラク侵略戦争加担のリアリティ
 2003年3月20日米英がイラクを武力侵攻して3年4カ月が経った。大量破壊兵器を保有し、テロ組織を支援しているフセイン政権に「先制的自衛権」を行使することが大義名分だった。しかし、その後「ガセネタ」だったことを当のアメリカが認め、アナン事務総長は、国連憲章違反の武力侵攻を認めた。要するに侵略戦争だったのだ。
 しかし、小泉首相は「このイラク戦争支持は正しい決定だと今でも思っております」(今年2月2日参院予算委員会)と、全く反省しない。否、「人道復興支援」という偽名を使った側面援助しか出来なかったことに不満で、直截に米軍に協力したいというのが本音だ。だから、近時の米軍再編への全面協力であり、九条改正なのだ。
 憲法九条は、イラク侵略戦争のリアリティに基づいて議論する必要がある。


◆ 自衛隊の本当の任務−米軍の後方支援活

現地の給水車に配水作業を行う隊員

 サマワの陸上自衛隊は、「人道復興支援」でイラク住民に給水していたと思っている国民が多い。しかし、実際には一昨年秋から治安悪化を理由にせず、米軍や多国籍軍に給水していた。なぜならば軍隊は、砂漠地帯では水がなければ1日たりとも活動できない。兵員の食事、衛生、治療はもとより、兵器の動力は主に水冷ディーゼルエンジンなのだ。だから、サマワの自衛隊の軍事的役割は、広大なイラク南部の砂漠地帯の占領政策を担う多国籍軍に「命の水」を供給するという、最も重要な後方支援活動だったのである。「人道復興支援」と矛盾する「重装備」で駐留した理由も、かかる軍事目的を考えると、実によく理解できる。日本国民は騙されていたのだ。

◆ サマワ陸自の撤退、空自の活動拡大の意味
  クウェートに駐留する航空自衛隊は、サマワの陸自撤収後もC130H輸送機三機態勢でクウェートとイラク全土24空港間において、多国籍軍兵士ならびに物資の輸送任務を継続・拡大して行う方向で検討し、さらにクウェート・イラク間に止まらず、米軍拠点のあるカタールなどへの米兵並びに米軍物資の輸送など、米軍拠点間での輸送も検討中と報道されている。もしこれが実行されるならば、「人道復興支援」というイラク派兵の口実は名実ともに消え失せ、まさに米軍の軍事作戦を支える「後方支援活動」そのものの性格を明確にする。否、正確に言えば、もともとイラク派兵の本来目的はここにあり、国民の関心と批判が薄れた頃を見計らってヴェールを剥いだだけなのだ。


◆ 戦争は商売−マスコミはなぜ報道しない

03年5月米軍占領〜04年6月主権移譲
暫定行政当局(CPA)令
12号 関税、輸入税、ライセンス料などの撤廃
17号 外国企業のイラク国内法の適用除外
39号 (1)イラク国営企業200社を民営化
  (2)外資がイラク企業100%所有を認める
  (3)外国企業とイラク企業の同等扱い
  (4)外国企業の得た利潤を100%国外送金可
  (5)外国企業に40年間の営業権を与える
40号 銀行に外資50%参入可
49号 法人税を40%から15%に
以上は、占領軍による被占領国の法律の改正を禁じた1907 年ハーグ条約に違反する。

 サマワは、世界最大の油田キルクークの原油をペルシア湾に運ぶパイプラインの中継地。従って、駐留自体がパイプラインを守る役割も果たしていた。
 イラク占領政策の目的は、暫定行政当局(CPA)が発した命令を見ればわかる。そのほとんどが経済政策で、治安対策・民生政策はない。経済政策の内容は、イラクを自由貿易化、さらには植民地化するものである。これだけイラク国内の資産と利益を米国を中心とする外国に剥ぎ取られては、経済的に自立した復興など出来るはずがない。





◆ 戦争で「殺す」「殺される」ことの意味
写真右→
 クラスター爆弾で右膝から下が飛ばされ、白骨がぶら下がっている少女。足元にはたくさんの死体が。当時世界中に配信されたAP通信のこの写真は日本では報道されなかった。「人道復興支援」に反するイメージを与えるので、マスコミが自制したのだ。少女を抱き上げたのは父親らしい。この父親の気持ちを察して下さい。
(DAYS JAPAN 2004/4)

←写真左
 息子の死体と面会する母親。右脇腹に銃痕があり、内蔵がはみ出ている。死体にはものすごい異臭がつきもの。それを想像して、この母親の気持ちを察して下さい。
(DAYS JAPAN 2004/8)

写真右→
 自爆テロに襲われ、恐怖の余り冷静さを失った米兵。もし、あなたがこの米兵のような状況に置かれたらと想像して下さい。
(DAYS JAPAN 2004/8)

←写真左
 撃たれて動けず、意識が薄くなっていく中、同僚に引きずられていく負傷兵。自分がこの負傷兵になったと思って想像して下さい。
(DAYS JAPAN 2004/8)


◆ 戦争と平和の分岐点に立って
 サマワは、世界最大の油田キルクークの原油をペルシア湾に運ぶパイプラインの中継地。従って、駐留自体がパイプラインを守る役割も果たしていた。
  イラク占領政策の目的は、暫定行政当局(CPA)が発した命令を見ればわかる。そのほとんどが経済政策で、治安対策・民生政策はない。経済政策の内容は、イラクを自由貿易化、さらには植民地化するものである。これだけイラク国内の資産と利益を米国を中心とする外国に剥ぎ取られては、経済的に自立した復興など出来るはずがない。

事務局から廣谷弁護士に聞く 憲法は宝 〜平和憲法の憲義〜
Q 日本国憲法のいう平和とは、どういうものですか。
A  "絶対平和主義"つまり戦争をしない、軍隊をもたない、ということです。
 これほど徹底した平和主義は世界の憲法でも初めてです。第九条のお陰で戦後六〇年間、私たちは戦争で人を殺すことも殺されることもない記録を打ち立てました。この平和主義を支えるために、憲法が出来ると同時に、政府の体制も大きく変え、とくに警察や教育を強大な中央の権力から解放し、地方に権限を移したりしました。
Q いま、憲法改正に向かう流れについて教えて下さい。
A  絶対平和主義だったはずが、昭和29年に自衛隊ができ、「軍」とか「軍隊」「軍艦」「戦車」という表現を使わない、ごまかしの再軍備を始めたのですが、発足時に年1400億円だった防衛予算が、今は年4兆8000億円まで拡張し、世界第4位の軍事力をもつ国になっています。
 しかし、これまで憲法の改正を国民が認めない立場を貫いてきたため、憲法には手をつけられず、憲法以外の法律を国会の多数の力を利用して、できるだけ戦前の体制に戻そうとしてきました。警察や教育の中央集権化、教育基本法改悪、政府が禁止を公約してきた「自衛隊の海外派兵」の強行などがそうです。
Q 憲法第九条を具体的にどのように改正しようとしているのでしょうか?
A  九条を変えて「自衛軍」という軍隊を持ちます。軍隊になれば、日本の防衛と無関係にアメリカ軍と一体で、世界中に派兵が可能になります。それを狙っているのが自民党案ですね。
Q 憲法改正問題に、私たちはどのように対処すべきでしょうか。
A  イラクの戦争をみて判るとおり、これからの戦争は軍隊、軍人だけでなく、幼児、女性、年寄りなどすべての国民を巻き込んだ殺りくです。とくに核兵器の使用に対しては、憲法九条の「戦争放棄」以外に防ぐ手段がありません。
 憲法改正は、衆参両院で3分の2以上の賛成があったうえで、そのあと国民1人ひとりの投票で最終決定します。でも、それまで黙って待っているのでなく、これからも衆・参の選挙が予定されていますから、政党の所属と別に「平和憲法を護るか否か」の全国的アンケート運動の展開など候補者も国民もまき込んで国会の3分の2阻止をめざす努力も重要と思います。
Q 先生が推薦されている「紙芝居・憲法は宝」の販売が好評のようですね。
A  世論調査で、「憲法をまだ1度も読んだことがない……70%」という結果が出ていました。私は、この本ならどなたでも一時間で憲法の肝心な部分が理解してもらえると思って推薦しました。予想をこえる好評なので、沢山の方にぜひ目を通してくださるよう願っています。

まだまだ危ない!共謀罪 弁護士 加藤 丈晴

◆ 共謀罪とは
 共謀罪とは、一定の犯罪について、団体の活動として、これを行おうと話し合っただけで、具体的な準備行為をしなくても罪となり、処罰できるとする犯罪類型です。
 この共謀罪の法案は、すでに4回も国会に上程されていますが、現代の治安維持法とも言われるその危険性ゆえに反対論も根強く、先の通常国会でも継続審議となっています。


◆ 共謀罪の危険性
 話し合いをするだけで処罰されるということは、単に心の中で思ったこと、考えたことを処罰することにつながります。このことは、表現の自由、ひいては思想信条の自由に対する侵害となりかねません。
 さらに捜査機関は話し合いの現場を押さえようとするため、盗聴や電子メールのリアルタイム閲覧、おとり捜査などの捜査手法が横行する危険性があります。これにより、私たちの日常生活が捜査機関による監視の対象となるおそれがあるのです。
 当初の政府案は、対象となる犯罪や団体を広範に規定していましたが、世論の批判を受けて、自民党案、民主党案が出されてその成立範囲が狭められるに至りました。
 しかし、話し合っただけで罪になるという危険性は、自民党案や民主党案によっても何ら変わることはありません。立川テント村事件のように、ビラを配っただけで逮捕され、有罪となる世の中ですから、このような犯罪が規定されたら、捜査機関による濫用のおそれが高く、私たちの正当な表現・政治活動まで制約を受けかねません。


◆ 共謀罪法案の廃案に向けて

札幌弁護士会で発行した
共謀罪に反対する
リーフレット

 現在継続審議となっている共謀罪法案ですが、政府・与党の成立に向けた意欲は依然として高く、予断を許さない状況です。
 札幌弁護士会では、共謀罪の危険性を訴えるリーフレットを作成して配布するとともに、評論家の佐高信氏を講師にお招きして共謀罪反対の市民集会を行い、600名以上の市民の方々の参加を得ました。さらに弁護士ら200名ほどが参加してデモ行進を行い、市民の皆さんに共謀罪の危険性をアピールしました。私を含めた当事務所の弁護士も、企画段階から積極的に関わり、中心となって活動しています。
 共謀罪法案の廃案に向けて、これからも共に闘っていきましょう。

弁護士等で行ったデモ行進

教育基本法を変えてはなりません!
戦争をする国と人づくり……子どもたちに顔向けができますか?
弁護士 内田 信也

 1 教育基本法は、子どもたち一人一人の人権を大切にして、豊かな人格をはぐくむために、どの子にも等しく教育の機会を保障することと、そのために国や地方公共団体の政治責任を定めた「教育の憲法」です。その教育基本法が今、改悪されようとしています。四月二八日に政府・与党は「改正」法案を国会に提出し、強行採決を狙いました。全国的な反対運動で、なんとかこの危機をしのぐことができましたが、継続審議になりましたので、秋の臨時国会が「天王山」です。
 真に子どものことを考え、日本の将来を心配するのなら、教育基本法の改悪は断固「阻止!」しなければなりません。それが、大人としての「最低限」の責務です。なぜならば、改悪のねらいが「戦争のできる国」と「戦争に行く人」をつくることだからです。その犠牲になるのは、子どもたちなのであって、年寄りの国会議員ではないのです。




東京都教職員組合発行
「憲法と教育基本法の改悪NO!」
パンフレット

2 改悪の本質を見抜くことが大事です。変えようとしているのは大きくいって次の二つです。
 (1)まず、一つ目。改悪案では、教育基本法前文の「(憲法の)理想の実現は、根本において教育の力にまつ」という部分を削除し、第二条「教育の方針」を新しく「教育の目標」として、その中に「我が国と郷土を愛する……態度を養う」ことを入れ込みました。所謂「愛国心」のことです。これを教育の目標にすることにより、憲法の平和主義を変えて「戦争のできる国」にし、「戦争へ行く人づくり」をねらっているのです。

 (2)二つ目は、国家による教育の支配を貫徹することです。第一〇条の「(教育は、不当な支配に服することなく)国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」を削除し、「国は教育に関する施策を実施しなければならない」として「教育基本振興計画」をつくって、教育内容をコントロールしようとしているのです。


3 子ども……それは未来の可能性とエネルギーを秘めた「希望」です。ところが、日本の子どもたちは、「高度に競争的な教育制度」のもとで心身ともに疲弊し、エリート教育で格差が助長され、未来に夢を抱けなくなっています。大人たちは、子どもたちの実情をしっかりと認識する必要があります。教育基本法の理念を大切にし、それを日々の生活の中に実現することによって初めて、子どもたちに笑顔と希望がもどってくるのです。「戦争をする国」と「戦争に行く人」づくりが、どうして子どもたちの幸せになるのでしょう。子どもたちが生きづらく、幸せでない国は、大人にとっても生きづらく、幸せでない国であることを知るべきです。
 教育基本法を変えてはなりません。変えた先に待っているのは、平和憲法の改悪と戦争への道です。子どもたちにそんな日本を残してしまって、恥ずかしくありませんか?

中小企業はどうなるか?労働者の権利は? 新会社法施行
弁護士 長野順一

 (1) 今年五月一日から新会社法が施行されました。これまで商法第二編にあった会社に関する規定や、有限会社法、商法特例法などが、一つの「会社法」という独立した法律にまとめられたのです。
新会社法では、条文がこれまでのカタカナ文語体からひらがな口語体に改められたほか、有限会社制度の統合、最低資本金、会社の機関、株式・新株予約権、組織再編など、会社をめぐる状況の変化を反映して、ほぼ全面的に見直しがなされました。

(2) 新会社法には、「新自由主義」に基づく規制緩和路線が色濃く反映されています。資本主義の担い手である会社に対して、これまでなされて来た種々の規制を、撤廃あるいは緩和し、経営や起業の自由化をはかるという観点が、今回の新会社法を貫く最も重要な理念であると言っても良いと思います。
「定款自治」という言葉に象徴されるように、これまで、厳格に法定されていた、取締役会や監査役の設置の有無、取締役の人数などの「機関設計」が、定款に定めることによって自由に選択できるようになりました。「種類株式」として、配当などに関する優先株のほか、株主総会での議決権がなかったり制限されたりする株式、「拒否権」をもつ株式など、様々な異なる内容の株式を発行することが認められるようにもなりました。また最低資本金が廃止され、資本金が一円でも株式会社が設立できるようになりました。
これらにより、起業がやりやすくなり、また経営者の選択の幅、自由度が大きくなりました。しかし、その一方で、一般株主や債権者は、株主として認められた種々の権利行使、投資先、取引先企業についての適切な情報の収集などにより、「自己責任」で、自らの権利を守らねばならないという側面が一層強くなったといえます。

(3) では、今回の新会社法施行に伴い、中小企業はどのように対応すれば良いのでしょうか。いくつか具体的に述べたいと思います。
1 「有限会社」はどうなる?
新会社法により、株式会社制度と有限会社制度が統一され、すべて「株式会社」となりました。「有限会社」も、新会社法では「株式会社」です。
ただし、「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(「整備法」といいます。)により、五月一日の時点で有限会社である会社は、「特例有限会社」として「有限会社」の名称で存続することができます。
有限会社も、実質は株式会社ですので、これまでの有限会社法にあった社員数の制限や、出資一口の金額がなくなり、種類株式や社債も発行できることになります。
他方、取締役・監査役の任期に制限がない(整備法一八条)、計算書類の公告義務がない(整備法二八条、会社法四四〇条)、などの点で普通の株式会社と異なった扱いが維持される面もあります。

2 既存の株式会社は(定款を変更しないままでいると)どうなる?
1) 譲渡制限会社(非公開会社)新会社法では、株式(すべての種類の株式)に譲渡制限をつけている会社を「非公開会社」として、譲渡制限のない株式を発行している会社(「公開会社」)と区別して規制をしています。たとえば、非公開会社ならば、定款に定めることにより、a取締役会を設置しないこと、b取締役となる資格を株主に限ること、c取締役の任期を最長一〇年とすること(公開会社は二年)、 d監査役の権限を会計監査に限定すること(ただし中小会社に限る)、e株式の数に関係なく一人一議決権とすることや全員同額配当にすることなどもできます。
2) 既存の株式会社は施行日以後は、新会社法の規定による株式会社として存続しています。非公開会社の場合、機関設計については、定款を変更して別の定めをしないかぎり、原則として、そのまま従来と同じ機関設計をしたものとみなされますので、それでよければ格別の措置は必要ありません。
ただし、これまで株式譲渡制限がなかった会社は、そのままにしておくと公開会社となってしまい、前記のa〜eができなくなります。昭和三〇年代〜四〇年代はじめころに設立された会社の中には、小さい会社でも、譲渡制限をしていない場合があります。自分の会社の登記や定款を確認してみる必要があります。

3 その他新会社法により、非公開会社においては、これまで認められていなかった相続や合併により株式を取得した者に対しての株式の売渡請求が、定款に定めればできるようになりました。
また、「会計参与」の制度が新設されました。会計書類の信頼性を確保するために、税理士、会計士などが、取締役とともに会社の内部者の立場で会社の計算書類の作成に関与する制度です。不正な会計書類の作成に関与すれば会計参与も責任を負わなければなりません。その意味で、「会計参与」の関与した会計書類には、信用性が高まるといえます。これらは、中小企業において、導入を検討する価値があると思います。

(4)労働者と新会社法
最後に、労働者の権利についてですが、新会社法において、直接労働者の権利に変更をもたらすような改正はありません。
しかし、新会社法の制定を、市場原理重視の法規制への転換ととらえ、これにあわせて、労働法制においても、労働者保護重視から市場原理尊重へと転換しようとする動きが強くなっています。今、検討されている労働契約法制は、その流れに沿ったものです。
労働法制において、労働者の権利保護を軽視する改正には、警戒する必要があります。

山藤三陽印刷不当雇止め事件
弁護士 渡辺達生

1 正社員・アルバイト・準社員・契約社員・パート等、社員を表す言葉は沢山ありますが、これらは、法的には、期間の定めがある雇用契約と期間の定めの無い雇用契約の2つに分類されます。一般に、正社員が期間の定めがない契約であり、それ以外が期間の定めのある契約であり、通常1年以内の短期契約になっています。
 近年、リストラにより企業が業績を好転させていますが、その中で、多用された一つの方策が、正社員を減らし、契約社員・パートを増やすという方法です。その狙いは、人件費の削減と、労働者の使い捨てにあります。
 働く労働者の立場では、正社員と契約社員・パートでは、給料をはじめとした労働条件が全く違いますし、雇用の期間の定めの有無の違いにより、身分の安定性も含めれば、天と地ほど違います。同じ労働をしているのに同じ処遇がなされないということは、憲法の保障する「平等権」に反しますし、簡単に雇い止めされれば、「生存権」の保障に反します。

2 山藤三陽印刷は、山藤印刷と三陽印刷が平成16年に合併してできた印刷会社です。山藤印刷も三陽印刷も歴史のある道内大手の印刷会社で、合併したことにより、地元の印刷会社としては最大手の印刷会社になっています。
 山藤印刷では、合併に当たり、多数の正社員を契約社員にしました。正社員と契約社員は労働契約の内容が違うので、本来、会社が一方的に変更することはできません。そこで、山藤印刷は、旧会社の正社員を一度退職させて、再度、新会社に契約社員として雇用するという方策をとりました。
 正社員を退職させるにあたり、一応希望退職を募集しましたが、辞めさせる人を先に会社の方で決めており、形だけ従業員の全員に面接を行い、その面接の中で、辞めさせる人については、退職勧奨を行いました。これでは、実質的には指名解雇に他ならず、契約社員として残された人も、賃金の切り下げ、身分の不安定化という不利益を強要されたことになります。

3 今回、このような経緯で契約社員になった労働者3名と合併後に契約社員として入社した労働者1名の計4名が、他の契約社員の雇用契約が更新される一方で、更新されず、雇い止めをされました。元々正社員であった3名については正社員の時と全く変わらない仕事をしていましたし、残りの1名についても正社員と同じような仕事をしていました。また、契約社員として雇用される時には、「長く働いてもらうつもりだ」と言われていました。にもかかわらず、突然、雇い止めをされてしまいました。

4 このようなことは、残念ながら世間では無いことではありませんが、こういうことが横行する社会は、労働者の尊厳を踏みにじり、安心して生活することができない社会です。今回、山藤三陽印刷の4 名の労働者は、このような不正義に泣き寝入りをせず、裁判に立ち上がりました。法的には難しい論点を含んでいる事件ですが、労働者の権利を守り、働きやすい社会にして行くために、絶対に引くことのできない事件です。皆さん、ご支援をお願いします。
 争議団がホームページ(http://www.petat.com/users/sougidan/)を作っていますので、是非、ご覧ください。

弁護士 笹森学の書評コーナー
 

「治安崩壊」

   

「人生のほんとう」

◆ 最近は、ライブドアや村上ファンドに代表されるマネーゲームがよくも悪くも脚光を浴びたり、世俗ではいたいけな子どもが犠牲になるなどの余りに残酷な事件が多過ぎる。イラクでは内乱状態が続いているし、イスラエルとパレスチナもギリギリの殺し合いを再発させようとしている。北朝鮮はミサイルを飛ばす愚行を繰り返している。今や世界も日本も何でもありの状態のようだ。

◆ このような拝金主義や暴力と硝煙の無秩序状態の中でより良く生きる条件は一体何か? うろたえていた私の目に留まった全く水と油のような2冊の本を紹介する。

◆ 1冊目は北芝健氏の著作である。彼は、私が司法浪人をしながら東京都大田区蒲田で生きていた頃の愛読書の1つ「まるごし刑事(デカ)」の原作者である元警視庁刑事であり、あの「踊る大捜査線」のネタ元だそうだ。「ひと桁の年齢の頃から弱い者いじめをする奴を暴力で打ち倒すことが『自分という人間の義務』だと、なぜか頑に思い込んで生きてきた」彼は「暴力善用」のため刑事となったが、現在の日本社会は「治安崩壊」(河書房新社)だと警鐘を鳴らし、警察や司法は勿論良民を含めて社会の秩序(制度)の建て直しの提言をしている。このようなリアルな見方をする必要もあるのかと思い知らされる(ただし著作はハチャメチャで面白い)。

◆ 2冊目は師と仰ぐ池田晶子女史の最新作「人生のほんとう」(トランスビュー社)。講演録に手を入れたものなので実に分かり易い。「世の中かり変」「いよいよ人間が崩れてきている」「加速して、それもすごい」「多くの人が気がついていない」こんな世の中では「自分さえ善ければいいんだ」「自分さえより善いことをしていればいいんだ」。

◆ どちらも乱世の中で明快な考え方を一貫しており、信頼に値する。


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