北海道、札幌を中心とした北海道合同法律事務所が発行する「事務所通信:北の峰」の2005年 新春号をご紹介致します。

 北の峰のご案内

巻頭言  

いくさ無くば 天寿を全うせるものを
被爆者の父 還らざる兄
八十路来て 二十で征きて還らざる
吾子を思えば 派兵論かなし
派遣もまた派兵も さあれ拒むべし
われに四人の 男の孫あり



 ことしは、広島、長崎の核兵器の惨劇から、そして戦争国家日本の敗戦・壊滅から60年です。戦争を直接体験しない世代が総理大臣はじめ政治家、国民の大多数を占める時代がきて、日本の憲法はもう古い、軍事力を強めずに国際貢献はできない、君が代・日の丸を中心に青少年に「愛国心」教育をと「いつか来た途」をめざした政府主導の大合唱がつづきます。
  これと反対に、この60年間日本と外国の戦争がなく、一人の青年も戦死していない事実、日本人の60歳以下が全く戦争の経験がない事実こそ、平和憲法の威力・真髄でないかという意見もあります。
  こうして世論が割れるなか、政府・与党は、2007年には九条など日本国憲法を変え、日本を60年前の「戦争する国」にという計画です。ノーベル賞の大江健三郎さん、三木元総理夫人の三木睦子さんら九人が「九条の会」を発足させ、国民の過半数がぜひ改憲に反対する一票をと訴えており、冒頭の詩(日経に掲載)も戦争体験に基づいた真摯な人間としての思いを感じさせます。

2005年 新春  北海道合同法律事務所一同
道警不正問題の現状とこれから 弁護士 渡辺 達生

 1.2004年2月に発覚した道警の不正問題は、現在も道政の最大の課題の一つです。当初道警は、不正の事実はないとの対応を取ってきましたが、道議会やマスコミによる追及や道警の元幹部(元釧路方面本部長の原田さんと元弟子屈署次長の斉藤さん)の不正の実態の暴露を受け、不正の事実については認めるに至りました。
 不正問題が発覚した場合に、まず、必要なことは実態を解明し、なぜ、不正が起きたのかを明らかにすることです。昨年の11月末と12月初めに相次いで、二つの調査が発表になりました。一つが、道警自身による調査報告で、もう一つが監査委員による調査報告です。


 2.道警の報告書によれば、平成10年度から15年度までの道費に関する不正額は2億円余りです。道警は、不正の事実は認めていますが、不正についての道警全体の組織的な関与は否定しています。
 道警の調査によっても、捜査用報償費という一つの費目のほぼ全額が不正に支出していたのであり、道警のほぼすべての部署が不正に関与していたことになります。全ての部署が不正に関与していながら、組織的な関与が無いということは考えられないことです。また、道警は、不適正な支出の総額を11億円余り(含む国費)としながら、何らの具体的な根拠を示さず、公費で支出できることに使用されたことが確認されたということで不正額を7億1,500万円余り(含む国費)に大幅に減額しています。また、総額を示すだけで、部署ごとの不正額を全く示していません。
 このように、道警の報告書では、不正の実態が全く明らかになりません。また、道警は、併せて、不正額について、幹部職員が負担して返還することも表明しています。実態を明らかにしないで、返還を先行させることは、疑惑に蓋をして、真相を隠そうとする態度に他なりません。


 3.一方、監査委員の報告書によれば、同じ期間の道警の道費に関する不正額は4億5,000万円余りと道警の発表額の2倍以上です。また、道警では不正が無かったと発表している旅費、食料費、交際費にも不正があることを確認しています。特に旅費について言えば、5,812万円余りの不正が認定されています。この報告書は、道警の報告書に比較すれば、相当程度、不正の解明に寄与していると言えますが、十分といえるものではありません。
  12月の報告に先立って、監査委員は旭川中央署と弟子屈署について調査をしていますが、その時には、捜査用報償費の全額が不正であると認定しているにも関わらず、その認定から一歩後退しています。また、この報告書では、不正問題が道警の組織的な問題であり、道警本部も深く関与していることを認定していますが、それ以上に、なぜ、そのような不正が起きたのか、不正に支出されたお金が何に使われたのか等については、全く切り込めていません。


 4.これらの点に、切り込こむためにも、道議会の百条委員会の設置が不可欠です。百条委員会は、地方自治法に規定された委員会で、当該地方公共団体の事務に関する調査の権限が広く認められ、強制力のある記録提出要求、証人出頭、証言拒否の禁止等の権限が認められています。原田さんや斉藤さんは元公務員であるため、不正問題のことを全て語ろうとしても、守秘義務の問題があり、語ることができません。もし、百条委員会が設置されれば、そこでの証言については法律上守秘義務を解除することができますので、原田さんや斉藤さんが道警の不正問題について知っていること全てを証言することができます。
 道警の不正問題の真相を究明するためには、百条委員会を設置して、原田さん・斉藤さんだけでなく、道警の現在の幹部を尋問することが不可欠です。現在、道議会の与党会派が反対しているため、百条委員会の設置には至っていませんが、道警の不正問題の真相を究明を求める世論を今以上に盛り上げて、設置に持ち込むことが重要です。


 5.現在、道警の不正問題に関わって三つの訴訟をやっています。訴訟は、最終的な紛争の解決手段であり、事件の重要関係者を尋問すること等は可能ですが、時の政治情勢に応じて臨機応変に対応するということはできません。
 道警の不正問題について言えば、議会と裁判の二つの場で追求をしていくことが重要だと思っています。


 6.昨今、犯罪が増加し、治安が悪化しているとの世論調査もなされています。確かに、犯罪白書等によれば、日本の犯罪の検挙率はここ数年急激に低下しています。警察官が裏金作りに時間を割くことが、検挙率の低下に繋がっているとの指摘もありますし、作られた裏金の恩恵に授かるのは、ごく一部の上級幹部であり、実際に捜査に携わる警官は、捜査のために必要な費用も自己負担を余儀なくされているとも言われています。
  私たちの安全な生活を守るためには、警察は必要不可欠な組織です。その組織を如何に民主的な立場から改革していくかという観点からも、この問題は極めて重要な問題です。

渡島信金会員代表訴訟の闘いが日本労働弁護団賞に 弁護士 長野 順一

 渡島信金理事長らが、労働組合の加藤副委員長を些細なミスを口実に懲戒解雇した上、その不当労働行為性を認めず最高裁まで争い、その間副委員長の職場復帰を命ずる仮処分、地労委命令を無視して、加藤副委員長の職場復帰を拒否し、賃金のみ支払い続けたことについて、渡島信金会員らが、理事長を相手に、副委員長の職場復帰させないまま支払った3,000万円を金庫に賠償することを求めていた、「渡島信金会員代表訴訟」において、昨年9月29日、札幌高裁は、理事長らの責任を認め、金庫に約3,000万円の賠償を、命ずる判決を出した。

 光栄にも、この渡島信金の闘いに対し、この度、日本労働弁護団から「日本労働弁護団賞」をいただいた。
 この判決で、経営者が、労働者を不当に解雇をし、その結果会社に損害を与えた場合には、経営者が会社に対して損害賠償の責任を負うことになることが明らかにされたもので、不当労働行為の「やり得」を許さないために、大きな力になるとの評価をいただいたものである。謹んで皆様にご報告申し上げるとともに、この闘いに力を貸して下さった皆様に心から感謝を、申し上げたい。

1日も早く自衛隊をイラクから戻そう
−侵略戦争への加担にNO!を
弁護士 佐藤 博文

 昨年12月14日が、イラク特措法に基づいて策定された「基本計画」の活動期限でした。国民過半数の「延長反対」の世論にもかかわらず、小泉首相は、「非戦闘地域」と言えるか、イラクにとって本当に必要な人道復興支援は何か、といった問題に何一つ答えずに、派遣延長を強行しました。アメリカの侵略戦争への加担以外の何ものでもありません。戦禍のイラクの人々の苦しみを思うと、本当に胸が痛みます。
 昨年1月28日、全国に先がけて提訴した自衛隊のイラク派兵差止訴訟は、「九条の会」など憲法改悪に反対する国民的運動と連動し、この1年間で飛躍的な発展を遂げました。北海道の後、名古屋、東京、大阪、静岡、大阪、山梨、仙台、栃木と提訴が続き、現在岡山と京都で準備が進み、もうすぐ全国10カ所となります。2月初めにはオランダ・ハーグの国際司法裁判所で行われた「世界正義と平和に関する国際会議」に箕輪さんが招かれ(代理出席)、演説しました。箕輪訴訟は、国際的にも注目されることになりました。
 裁判は、今年は立証段階に入ります。箕輪さんの昨年2月1日第四回弁論の意見陳述をご紹介し、皆さんのご支援を訴えます。


 自衛隊は専守防衛を任務とするものであり、そのために志願して若い人が入隊したのです。それを侵略戦争の共犯者にするのか。小泉首相はあんまりだ。
 30年前に長沼訴訟で自衛隊が違憲であるとの主張がされたとき、佐藤栄作総理は国会で、憲法は自主防衛を認めている、自衛隊はそのためにある、自衛隊は海外へは出さない、集団防衛はしない、非核三原則は守る、と約束しました。ところが、最近は集団防衛があたりまえです。小泉首相はブッシュ大統領の飼い犬です。情けない話です。


 今度、私は国際司法裁判所のあるオランダへ行きます。正義と平和のフォーラムが開催されるのです。そこに私が呼ばれるのは、この自衛隊イラク派遣差止札幌訴訟のことを彼らが聞きたいからです。今や、世界がこの裁判に注目しています。統治行為などという訳のわからないものではなく、訳のわかる判決をしていただきたい。これは明らかに侵略戦争です。


 イラクの人が1万3,000人殺害されたといいます。
 我が親が、子が殺されてなぜレジスタンスができないのか。私なら、レジスタンスの先頭に立つでしょう。ところが、日本人の犠牲者が新たに一人出たことに対して小泉さんは「テロに屈しない」などと言う。なんという情けない総理でしょうか。


 アジアでは、今、どの国も日本としっくりいっていません。しっくりいかせるのが外交であり、防衛政策です。先般、西ドイツのシュレーダー首相が、かつてテロ組織の存在したルーマニアで言いました。 「EC は今や25カ国、今までドイツはこんなに友人が増えたことを経験していません。」と。これこそが安全保障だと私は思います。(拍手)

新鮮な緊張感! 家事調停官一年生 弁護士 内田 信也

 2004年10月から「家事調停官」として札幌家庭裁判所で毎週木曜日に家事調停を担当しています。似たような職種に「家事調停委員」がありますが、「家事調停官」はそれとは異なりまして、非常勤裁判官(パート裁判官)で、調停の主宰者なんです。ですから、私の場合、毎週木曜日は、弁護士でなく、朝から夕方まで裁判官(公務員)というわけです。週に1回の「モード」の切り換えは、緊張はしますが、新鮮です。


 さて、家庭裁判所で行われる家事調停の代表的なものは、離婚調停ですが、法の建前は、裁判官と2名以上の調停委員で「調停委員会」を構成して、この調停委員会が離婚調停をすすめることになっています。(家事調停官は、調停委員会を構成する裁判官と同じ地位です)しかし、これまでの実務では、裁判官というのは、家事調停事件を1日8〜10件(午前4〜5件、午後4〜5件)抱え、他にも仕事がありますから、1人で全ての事件に立ち会うことができません。その結果、男女ペアの調停員が手続を進め、むずかしい争点のある事件以外は、ほとんど調停員にお任せという実態がありました。ですから、当事者は調停が成立するか決裂して不調に終わるか、の最後の時点でしか裁判官の顔をみることはなかったのです。多忙な裁判官としてはやむを得ないこととはいえ、それが「裁判官不在の調停」と批判されることにもつながりました。


 そこで、私は考えました。そもそも家事調停官には、家事調停をやる以外に裁判所内での仕事がない。すると、多忙な裁判官の真似をして「調停委員にお任せ」することは、「職務専念義務」に反することになるのではないか……というわけで、私は、裁判官室にのんびりと座っていることなく、「全件立会」をすることを決意しました。残念ながら体は1つしかありませんから、同時に複数の調停に立ち会うことはできませんが、常にどこか1つの調停室に入って調停を進めながら、他の部屋をかけもちで飛び回るのです。そうなりますと、しっかりと当事者の話を聴こうとすると、今のところ、午前3件、午後3件位が限界です。


 2004年4月から、人事訴訟法が改正されて、離婚事件の場合、「調停は家裁、訴訟は地裁」であったものが、「調停も訴訟も家裁」となりました。これによって「調停は訴訟の準備段階、白黒は訴訟で」と考えて、調停を軽視する弁護士がいたとしたら、それは大きな間違いです。離婚紛争の適切妥当な解決を考えた場合、訴訟によって互いに相手の法的責任を追及し、非を暴き合い、子を奪い合い、勝ち負けを争って、一応の結論は得られたとしても、子の父と母は互いに深く傷つき、子どもの福祉にとって重大な悪影響をもたらします。もちろん、中には到底合意による解決は不可能で訴訟手続に解決を委ねるしかない事例もありますから、調停相当事件と訴訟相当事件の見立てをタイミング良く適切に行う必要があります。しかし、新人事訴訟法になっても、調停の重要性にはいささかの変化もありません。


 3カ月やってみて気が付いたのですが、家事調停事件のうち弁護士が代理人としてついているのは1割にも満たず、ほとんどが本人による申立なんですね。そんな状況の中で、裁判官が実際に立ち会うと、調停委員だけの時に比べて調停成立の確率が上昇するような感じがします。調停が成立するということは、いがみ合っていた夫婦の穏やかな別れの実現にほかなりませんから、逆説的ではありますが、家庭の平和、ひいてはそこに暮らす子どもたちの幸せに直結するのです。私は、昔から、家庭紛争における調停の重要性を説いておりましたが、家事調停官をしてみて、ますます調停手続の大切さとその魅力を実感いたしますね。


「死亡推定時刻」 朔 立木 (光文社)

 富士山麓にある某町。フィクサーの中学生の娘が誘拐され1億円の要求があった。現金の受け渡しに向かった妻に指定場所変更の電話。不意をつかれた警察は身代金を渡さない方針を選び、翌々日娘は死体で発見される。山菜採りに行った青年は落ちていた学生カバンの中の財布から4千円を盗み、死体を発見して脱兎の如く逃げ出す。こそ泥の前科のあったトロい青年は見事なまでに身代金目的誘拐、殺人、死体遺棄罪の被告人に仕立て上げられる。四面楚歌の息子のために自分の葬儀費用を担保に弁護士費用を工面した母親は、心不全で死亡する。これまで買収していた子飼いの県警本部長にフィクサーは迫る。娘はいつ殺されたのか、と。哀れな子羊となった青年は事実を争わず、実質審理一回で死刑判決を下されてしまう。誰も引き受け手のいないこの事件の国選弁護人となった川井倫明は、泣く子も黙る東京高裁の地獄部に対し敢然と冤罪の主張を展開する。刑事手続の矛盾を平易な文章で抉り出し、現役刑事弁護人と称する著者が風前の灯火となった刑事弁護人の魂に祈りを捧げる佳作である。心から「弁護士を呼べ!」と叫びたくなる一冊である。


弁護士紹介取扱分野Q&A